Good fellows' Robin 3

 ◆


 結局、呆気あっけないほど簡単にロビンをつかまえることはできた。


 そりゃ、普段から何くれとなく気にかけ、無理矢理むりやりにでも世話を焼いてくれる圧の強いおばちゃん――たぶんシンシアには拳骨げんこつと共に「おねえさん」に訂正される――と、前日に邂逅かいこうしたどう足掻あがいても不審者がそろって突然現れれば、脳がキャパオーバーするのは想像にかたくない。


 普段より簡単だ、とひとちるシンシアに右腕をつかまれて、そのまま、ぽかんとした表情で連行されるロビンの後ろを歩きながら、じっとその様子を観察する。

 どう見ても、人間である。ところで妖精って人間にどこまで擬態ぎたいできるのか、僕はまるきり分からないんだよね。


 そうしてロビンを連行したシンシアは、家に着くと、まず僕の方を向いて言いはなった。


、あんたロビンにシャワー浴びさせといて」

「え、僕が?」

「その間にあたしがめしを作る。片棒かつぐなんていったのはあんただ。いい効率化だろう?」


 そうして、シンシアは台所に引っ込んでしまう。

 まあ、そうだね、そうね、そう言ったのは自分だ。と、言質げんちをとられた自分を呪って、ロビンに向き合う。


「ええっと、ロビンでいいんだよね。僕はキミ・カツラギ。日本人で、今はシンシアのとこにイソーロー……英語でなんて言うんだこれ」

「……」

「まあ、その、昨日は驚かせちゃってごめんね」


 じっと見つめてくるだけのロビンに、これは強引に事を起こさないといけないやつなのか、それこそヤバイ不審者じゃねーか、でも子供のあつかいよくわかんないな、ノリでいけるかな、などと思っていると、ロビンが小さく口を開いた。


「……アナタ、何?What are you?


 whoですらなく、whatと来た、か細い声であっても、そのインパクトのすさまじさたるやである。

 いや、不審者でしかないのはわかってるよ、わかってるけど、これはないだろ、人だぞ、僕は。

 そう思って、その髪の奥をのぞき込んで、そして、


「……ロビン、キミ、まさか」


 そう言えば、すうっと青い色と光がにじみ出したような目と、目が合って、ロビン少年はおびえたように、でも昨日のように逃げ出すことはなく、少し首をちぢこめた。

 一瞬ぎった考えを、そのまま深掘りしたくなる欲をぐっとこらえる。そんなことしたら、後でシンシアの拳骨げんこつを食らいかねない。

 わずかな時間をしんで身を犠牲にできようか。考える時間は後でいくらでもあるのである。


「……ロビン、とりあえずシンシアの言う通り、バスルーム、行こうか」


 そう言うと、彼は少ししぶるように、それでもそっと背中を押せばついて来た。

 バスルームまで行けばなんとかなるなとホッとしていたのだが。


「ほら、シャツ、脱いで」

「……」


 ところがどっこい。こと此処ここいたってしぶる、しぶる、しぶる。


「うー、シンシアに怒られるの僕だからさー、僕を助けると思ってここは一つ!」

「……」


 ダメ元での泣き落としもきかない。

 子供の無言の抵抗ほど、強いものもない。

 ああ、これは仕方ない。不審者と思われてるのだもの、そりゃ当然の反応だ。むしろ、ここまで来たら、その徹底てっていした危機管理能力をたたえるべきである。

 そう腹をくくって、バスルームから台所に向けてさけんだ。


「シンシアー! 手伝ってー!Help me!


 少しばかり待てば、眉をいからせたシンシアがバスルームにやって来た。


「なんだい、まだシャワー浴びせてないのか」

「それが、どうにも脱いでくれなくて……丸のままは流石さすがにないだろ?」

流石さすがにあんたにまかせるには、あんたが胡散臭うさんくさすぎたか」


 そこは否定できない箇所かしょなので、黙る他ないが、抗議の意味を込めて頬をふくらませておく。


「ほら、ロビン、いつもみたいにうちのバスルーム使っていいんだよ?」


 ところが、シンシアにそう言われても、ロビンは首を横に振るだけだった。

 シンシアと僕は顔を見合わせた。

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