11 ロビンの言い分

 はらう。


 その言葉に、ちくりと真由まゆの胸が痛んだ。

 それが誰かわからなくても、それでも助かってほしいと願った別の心優しい誰かの残滓ざんし

 それが真由まゆが見た怖いものの正体だというなら、実害というにはあまりに些細ささいなそれを消すというのは――


「同情なんか、マユがする必要はないよ」


 真由まゆの思考をち切るように、ぽつりと、ロビンがそう言った。


「本来、もう息絶いきたえたウワサだったんだ。それがまた流されて、そしてキミや交通事故にあった子がを見た。それは、そうとは知らなかったとはいえ、墓をあばくような行為だったと言える。静かに眠らせてあげるのが、一番いい」

「……」

「オリカが対処すれば、ウワサが流れたところでそう簡単に顕在化はしなくなる。だから、同情するぐらいならいのるべきだ。安らかに眠れR・I・Pって」


 それでも、真由まゆは感情的に納得なっとくがいかない。

 ロビンが苦笑する。


「マユ、さっきもオリカが言ったでしょ? 優しい人がいるから怪談は作られる。でも、それ自体、本当に優しいこと?」

「え……?」


 青い目が射抜いぬくように真由まゆを見ている。

 暗がりでもいやにはっきりとしたその真昼の空のような青は、かすかに発光しているようにさえ見えた。


「勝手に同情して、勝手にそうだったらいいなんて希望を押しつけて、死人に口なしとは言うけれど、それって本当に優しいこと?」

「……」

「さっきも行った通り、それは墓をあばいて、その死体をさらし物にするような行為だ。でも、その一方で確かに死者に栄誉を押しつけるような行為だ。そして、何より、誰もがそうであればいい、と考える」


 得体えたいの知れない青い目は、心の内まで見透みすかすように、真由まゆの視線をめる。

 あの逆さまの人影の時のように、目が離せない。


「誰もが、そうあった方がよろこばしいと思うから、荒唐無稽こうとうむけいが起きる。どんな世界も、思ったより、理屈は通用しない。だから、そうあってほしいなんて同情なんてするべきじゃない」

「……」


 それでも、不快や恐怖はなかった。

 ただ、その言葉にしたがうように、真由まゆは自然と、こっくりうなずいていた。


「……目撃者の思いはなかったことになるんじゃない。あったけれど、正しい形に収まる。それを喜びこそすれ、悲しむ必要はない……いいね?」

「……わかり、ました」


 自然と、真由まゆの口がそうこぼす。

 こぼすと同時に、真由まゆの頭の中はうっすらやわい霧がかかる。


 ――それでいい。それでいいのだ。

 だって、専門家がそう言うのだし、真由まゆにはその真偽しんぎ見極みきわめるための能力はない。

 何より、きっと、これ以上首をんでいい問題でもない。

 それは、迷惑になるとかそういうものではなく、そう、他でもない、真由まゆ自身が平穏に生きるために――

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