9 織歌の仮説3

「ロビンさんは私よりも耐性がありますから、たぶんほとんど無かったはずです」


 織歌おりかはロビンの方に視線を向けた。


「そうだね、それはボクにはなかった。でも、オリカ、その耐性の意味、単純にこういう怪異を見る事を指した耐性、ね?」


 補足ほそくするようなロビンの指摘に、織歌おりかが一つうなずいた。


「はい。これは、、というのもあります。コレに害らしい害はそこまでありません。けれど、このき上がる恐怖に近い感情、そもそもし、真由まゆさんの感じたそれも

「……はい?」


 隣でわずかにああ、とロビンが声を上げていたが、真由まゆには理解できなかった。


同期Synchronize……一般的には憑依ひょういとか言った方がいい……のかな。共感とは違うね……うん、共鳴と言うのが相応ふさわしいかも」


 ロビンがそう悩み悩み口にする。

 それを聞いて、真由まゆにもようやくなんとなくの理解ができた。


「この感情はし、です。でも、それなら、この感情は

「……えっと、飛び降り自殺した、生徒?」


 唐突な話の流れの変化に頭が追いつかない真由まゆには、これまでの話の登場人物から、それしか思いつかない。けれど、織歌おりかは首を横に振った。


「いいえ、その人のものでもありません。そうであれば、外側から見たロビンさんが『』なんて言わないのです」


 そういえば、校舎をぐるりとまわってきたらしいロビンは戻ってすぐにそう言っていた。

 真由まゆがロビンの方を見ると、それに気付いたロビンがうなずいて口をひらく。


「オリカが避雷針ひらいしんなら、ボクは斥候せっこう。というのも、ボクは見る事にけてるから。正確には目の機能が、だけどね」

「ええ、そのロビンさんが外側で『こっちからはあんまり』なんて言ったということは、ということです。、その飛び降りの経路上に、他にも影響を与えてしかるべき、です」


 織歌おりかの言葉で、真由まゆはロビンが一階でじっと踊り場の窓を見上げていたことと、二階を過ぎたあたりで口にした問いを思い出す。


「……どうして、四階だけって、そういう事、ですか?」

「そう。外の着地点になるはずの場所、一階と二階、二階と三階のそれぞれの踊り場の窓、全てにおいて、ボクはコレにるいするものを


 ロビンが真由まゆが思いいたった点を肯定する。


「本人の思念であるなら、それは不可解だ。文化的にを同音とする日本人の怪談において、数字が四に寄るものだとしても、踊り場であって、明確な四階ですらない。だから、これはウワサが語られている内に、無意識に話が改造された結果でもない」


 整然とロビンが言う。織歌おりかまさしくその通りと言いたいように、こくこくとうなずいている。


「だから、本人であるとしたら、辻褄つじつまが合わないのです。そして、その説明されないチグハグさが恐怖と異質性を、よりあおっていると考えられます」

「えっと、じゃあ、結局、誰……?」


 真由まゆの中で、やはりアレは単に幽霊だった方が良かったのではないか、という後悔に近い考えがうずを巻いていた。

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