3 天秤は安定しない

 ◆


 案内人に指名された真由まゆが、一縷いちるの望みをかけて先生達に言わないと、と言うと、ロビンが皮肉げに笑って言った。


丁度ちょうど、許可とったとこだったんだ」

「それで、とりあえず外から見ようって向かってた所で、真由まゆさんと会ったわけですね」


 間が、絶望的に、悪い。

 いや、でも、真由まゆ自身はこの二人のおかげで先日の生徒のようにはならなかったのだが。


「大丈夫です、大丈夫です。私自身は自信ないですけど、ロビンさんや先生太鼓判たいこばんのある私がいるので」


 にこにことしながらも、真由まゆの背中をぐいぐいと押しながら織歌おりかが言う。


「え、ええ……」

戸惑とまどうよね、うん。ボクも一緒にいながら思うけど、オリカは意外と見た目よりしたたかだからね」


 そう言いながらも、ロビンもすたすたと昇降口に向かっている。


「えっと、あの、その先生って方は来ないんですか?」

「んー、先生が動くとちょっと大事おおごとになりやすいので。基本ロビンさんが斥候せっこうで、私は護衛……というか避雷針ひらいしんというか、そんなものです」


 困惑気味に織歌おりかたずねれば、そう返ってきた。

 大事おおごとになりやすい、という言葉が真由まゆの中で少しひっかかる。


「そんな台風みたいな人なんですか?」

「台風とは言いみょうですね。あ、でもあの先生の場合、竜巻かも。通った後全部吹き飛ばすという意味でなら」


 どうやら、この二人の言う先生は思っていた以上に針のごとき小ささを棒にまで大きくできる人物らしい。

 それでも、依頼があるということは、それなりにすごいのだろうか。


 昇降口をくぐって観念した真由まゆは、そのまま先程さきほど叩きつけるように閉めた下駄箱の扉を開けて、上履うわばきにえる。

 少しばかり、扉の建てつけが悪くなったように思うが、少なくとも真由まゆ自身は悪くない。悪くないと思う。

 ロビンと織歌おりかは靴を脱ぐと、織歌おりかが自分のトートバッグから二組のスリッパを取り出して、片方をロビンに渡している。


「そういえば、真由まゆさんはどうしてこの時間まで残ってたんです?」

「私、放送委員で、下校時刻を知らせる放送を流す当番だったんです」

「えーと、四階東側でしたっけ」

「そうです。一階の職員室まで鍵を返しに行って、教室は四階西側なので」

「ふむふむ」


 そう話している内にロビンが、ぱすぱすとスリッパの足音を立てながら、ぐに真由まゆけ下りてきた西階段に向かう。

 その視線は何故か下を向いていた。

 まるで、見えない自分の足跡を追われているようで、なんとなくいい気持ちはしない。


「あ、ロビンさんのルート、合ってます?」

「え、ええと、正確なのはよく覚えてませんけど、その、西階段から降りてきたので、方向自体は合ってます」


 迷う事なく視線を下に落としたまま、ロビンは西階段まで向かい、そしてそのまま一階と二階の間の踊り場の窓を見上げるように顔を上げた。


「……」

「ロビンさん?」

「……いや、なんでもない」


 織歌おりか真由まゆが追いつくまでそうしていたロビンは、織歌おりかに声をかけられると、頭を横に振って、一段目に足をかけた。

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