96話 サジュへの対策を練る

 昼休憩の時間。ニアギスに連絡をしてもらい、シャーナさんに相談をした。


「……直ぐに対策をした方が良いわ」


 まだ決定的な被害を受けていないので、全て私の考えすぎではないか。そう思ってしまう面もある中、シャーナさんはそう言った。


「信じてくれるの?」

「勿論よ。学園の友人であっても、毎日待ち伏せなんて不自然だもの」


 普段は柔らかな微笑みを絶やさないシャーナさんが、アーダイン公爵に似て険しい表情を浮かべている。


「無暗に抑えつけ、遠ざけては危険ですね」

「そうね。本当に厄介だわ」


 ニアギスの言葉に、シャーナさんは同意する。


「どうして?」

「ミューゼリアお嬢様の証言の通り、周囲の目を気にしないとなれば、自分を客観視できていないと推察されます」

「こう言う手合いは、他者が介入すると行動が激化するのよ。私達をミューゼリアとの関係を引き裂く敵と思い込んで、貴女を守るために四六時中ついて回る事だって考えられるの」

「さらに激化すれば誘拐や軟禁……最悪の場合は殺害の恐れがあります」


 私もその話に聞き覚えがあった。

 町中で見かけた10歳の女児に目をつけた男は、親に反抗する14歳になった所を見計らい誘拐、軟禁し、脅迫を続けながら2年間共に過ごした。

 ある女優のファンと自称する男がいた。毎回彼女の演劇を見に行くが、暴言だらけの嫌がらせの手紙を何百通と送り続けた。他のファンと違い一切返事が来ず、さらに劇場から出禁にされてしまい逆上した男が、劇場から自宅へ帰ろうとする女優を待ち伏せし、殺害した。

 別れ話を持ちかけられた男が、逆恨みの末に集団で彼女を付け狙い、暴行の末に殺害をした。

 新聞に記載された凶悪な事件だけでなく、男女問わず被害を受けている人は存在する。


「ニアギスは、これから常にミューゼリアの護衛をして頂戴。それと一緒に、記録を事細かに取るのよ。暴力的な行為に走った場合は、すぐにでも取り押さえるように」

「かしこまりました」

「ミューゼリアは、出来るだけ普段通りにするのよ。エレウスキーさんから、何か聞き出そうとしないでね。自分に興味があると勘違いされて、より一層盲目的に思われてしまうわ」

「うん。わかった」

「あとは……殿下と先生方に伝えておきましょう」

「え? 殿下も?」


 レーヴァンス王太子の名前が出るとは思わず、私は訊いてしまった。


「えぇ、それには理由があって……狩猟祭の事件があったのよ。イグルドったら事後報告するものだから、レーヴァンスが相当怒っていたわ」


 私も事後報告された身なので、レーヴァンス王太子に同情をした。


「兄様から聞いたよ。大変だったみたいだね」

「そうなのよ。その事後処理は大人がやってくれたけれど、今後が問題よ。レーヴェンスはイグルドだけじゃなく、貴女にも護衛が必要だと検討しているの」

「私はニアギスが居れば、充分な気がするけど……」


 学園ではニアギス、外に出る時はリュカオンとアンジェラさんが付いていてくれる。安全面では申し分ないように思える。


「貴女の場合は、目撃者を増やすのが目的よ。本人は危機感を持っていても、勘違いと言われたり、モテるとか言って軽く見る輩がいるのよ。だから、沢山の人に状況を見てもらって証拠を揃えるの」


 異性からの嫌がらせや陰口、自分勝手で一方的な愛情表現。会うたびに繰り返される所業に耐え切れず、助けを求める被害者に対して、相手の好意を受け取れと安易に言う輩はかなりいる。

先にシャーナさん達に相談したのは、好かれて良かったじゃないか、と教師陣に言われそうで躊躇っていた面がある。貴族の子供相手でも、言う教師はいる。

そんな相手にも目に見える証拠を付き出せば、多少は黙り、まともな人ならば解決しようと協力してくれる。


「長期戦になるわ。一緒に頑張りましょう」

「うん!」


 シャーナさんの心強い言葉に、私は頷いた。


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