23話 国王からの呼び出し (一部修正)

 万事休すかと思ったが、探しに来てくれたお母様とレンリオス家の護衛兵1人が、警備兵達を止めに入った。

 あの女は何か暴言を吐き、抗議をしていたが、お母様は〈子供の保護が最優先〉と一貫した姿勢で対処をしてくれる。騒ぎを聞きつけた貴族や他の警備兵達は、倒れているシャーナさんを見て即座に緊急事態であると察し、お母様の意見に同調して動いてくれた。

 シャーナさんは病院へ搬送され、今回の騒ぎについては第三者を雇い入れて正当な調査が行われる事になった。

 私は、別館で6日間の謹慎処分になった。

 家族4人の衣服を除く全ての荷物、そしてシャルティスの入っていた木箱は一旦証拠品として持ち出され、生誕祭の最後のパーティは家族全員欠席を余儀なくされた。

 両者を平等に調査するためとはいえ、なんだか腹が立つ。

 家族やリュカオン、レフィードに申し訳ない。

 シャルティスの人工栽培を手伝ってもらえるような有力者とは会えず、お父様の地位を揺るがせてしまった。


『そう落ち込むな。君は、間違ってはいない』

「うん……」

『正しものを罰するような国ではないだろう』

「そうだと良いけど……」


 生誕祭最終日。私は別館の部屋でレフィードに励まされていた。 

 この6日間。私は食事とお手洗い、お風呂以外はずっと部屋の中だ。幸い、あの騒動が遭っても別館の使用人達は私に優しく接してくれた。メイドの1人に、屋敷から持って来た本と同じものを借りたいと頼むと、用意して持って来てくれた。本を見繕ってくれるようになり、そのお陰で部屋に籠っていても窮屈な思いはしなかった。

 でも、穏やかに過ごせるからこそ、不安は募っている。


「レンリオスお嬢様。入っても宜しいですか?」

「はい。どうぞ」


 私の世話をしてくれているメイドの1人が、昼食を持って来てくれたのかと思ったら、何故か部屋に3人入って来た。


「あの、どうかしたのですか?」

「今から、城へ向かう支度をさせていただきます」

「も、もしかして、裁判ですか?」


 何も話は聞いていないが、あるとすればそれ位だと思い、聞いてみる。私の問いかけに、1人のメイドが驚いた様子を見せ、もう1人は不思議そうな顔をする。残りの経験豊富そうな1人は表情一つ変えていない。


「申し訳ありませんが、城で行われる事柄については、私どもは聞いておりません。我々メイドは、傷一つ点けず、レンリオスお嬢様の身支度を綺麗に整えるよう陛下から仰せつかりました」


 熟練のメイドの一人が私に優しい声音で答えてくれる。


「陛下から?」

「はい」


 国王陛下から、罪人として扱われていないのは分かった。城に行くにはそれ相応の服装で向かわなければならないが、どういう理由で行く事になったのか見当が付かない。


「えと、待たせてしまうのは失礼なので、お願い致します」


 行ってみなければ分からない。私はメイド3人に支度をお願いした。

 バスタブに満たされたお湯には薔薇の花が浮かび、香油が含まれているのか湯気と共に香りが空間に広がっている。訳が分からず私は抜くを脱がされ湯に浸かると、メイド達はいつも以上に丁寧に身体の隅々まで磨いていき、髪は一本一本の先まで入念に洗っていく。

 綺麗に洗われ、髪は痛まない様に手早く乾かされ、次はドレス選びである。

 着替えの為に部屋へと戻ってくると、山のようにドレスや靴などの入った箱が積まれている。お母様が用意してくれた14着。それでも私にとって脅威だが、新たに20着が用意されていた。今まで着たドレス8着を除外しても、26着。何故増えた。

 次々と箱の中から現れるリボンや高価なアクセサリーに驚きつつ、あれでもない、これでもない、と私は着せ替え人形の様にお母様とメイド達に振り回された。

 大体2時間が過ぎた頃にようやく決まり、全てのセッティングが終わった。もうすでに疲弊している。

 バッスルラインと呼ばれるお尻の辺りが膨らんでいる形状の水色ドレス。スカートにはピンクホワイトの真珠が散りばめられ、レースや花の刺繍が細やかに施されている。首には金剛石のネックレス、頭には同じ宝石を使った百合の形をした髪飾り。

 お母様が用意してくれたドレスで驚いていた私は、絶句し震えた。こんな高価なものが用意され、何故王の元へ行くことになったのか、考えたくない程だ。


「馬車をご用意しております」


 初老の執事にそう言われ、お父様と一緒に私は正門へと歩いて行った。

 門の前には、白を基調とし金の精密な装飾と国家の紋章が施された馬車。それを引くために金の装飾があしらわれたハーネスを装着する2頭の白馬。実際に目にするのは初めてだが、これは王家が乗る馬車である。

 お父様と共々困惑していると、馬車の窓に見知った顔が現れる。


「殿下!?」


 私が驚いて声を上げると、警護をしている騎士の一人が馬車のドアを開けた。出てきたのは、白い礼服を来たレーヴァンス王太子殿下だった。


「王国の若き太陽。王太子殿下直々に、どうしてこちらへ?」

「御二人を迎えに参りました」


 戸惑うお父様の問いに、レーヴァンス王太子はにっこりと笑顔で答える。

 慌てて彼の近くに行った私は、ある事に気づいた。レーヴァンス王太子の瞳の色が赤から赤紫色へ変化をしている。この世界に目の色を変える薬は無く、肉体強化の魔術はあっても変化させる術は無い。

 まさか、赤い液体の影響で瞳の色が変化をしていたのだろうか?

 ゲームでリティナを操作している時に、何度も陛下にお会いしたが、彼の瞳もまた赤かった筈だ。陛下もあの液体を飲んでいた可能性が浮上し、私は混乱した。

 あの女が仕出かしたにしては、あまりにも規模が大きい。ゲーム中で関りの少ないアーダイン公爵が画策したとも考え難い。8歳の私では、どうにもできない程に大きな壁が出現したように思えた。


「ミューゼリア。大丈夫だよ。一緒に行こう?」


 レーヴァンス王太子は、心配いらないと言うように私へ手を差し伸べる。

 不安が募るが、城へ行く覚悟は出来ている。私は、王太子の手を取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る