第5話 正直に話しました

 さて。フェンリルが仲間になった太一は、もうこの森とはおさらばしたいと考えていた。ドラゴンがいるところになんて、いたくはない。

 ということで、目指すは街だ。


「なあ、ルーク! 街に行きたいんだけど、道は知ってるか?」

『街? もちろん知っているぞ。というか、知らないのか……?』


 そういえばテイムのこともよくわかっていなかったなと、ルークにジト目で見られてしまう。


(仕方ないだろ、俺はこの世界に来たばっかりなんだから……)


 自分が猫の神様によって転移させてもらったことを言うべきかどうか、悩む。しかしそもそも、異世界から来たと言って、信じてもらえるのだろうか。


(でも、ルークはこの世界で初めてできた仲間……だもんな。よし!)


「ルーク、話があるんだ……!」

『な、なんだ?』


 太一は前のめりになりつつ、ルークに今までのことを打ち明けた。




『……なるほど、この世界の人間じゃないのか。確かに、そう言われるとしっくりくるな』

「え、そうなの?」

『ここはめったに人が立ち入らない深い深い森の中だ。入るためには、結界も越えないといけない。それなのに、お前は軽装すぎる』

「あー……」


 ルークの言葉を聞き、太一はなるほどなと頷いた。

 自分の服装を改めてみると、死んだときと同じスーツのままだ。防御力なんて皆無だし、なんなら転んだはずみに破けるかもしれない。


(とりあえず、ここはやばい森の中なのか)


 それならば、やはり可能な限り早く街へ行きたい。

 そして同時に、もう一つ問題があることに気づく。それは、ルークがでかすぎるということだ。二メートルほどあるので、街に入るのが難しいかもしれない。


「ルーク、そのままだと街に入れないかもしれないんだけど……どうにかならないか?」

『ん? これでいいか?』

「おおっ!」


 すると、ルークの体がみるみるうちに小さくなり、一メートルほどの大きさになってしまった。これなら大型犬と呼べるサイズだし、街に入るのも問題はないだろう。


「よし、じゃあ街に――」

『待て』

「ん?」


 早く早くと太一が急かそうとすると、ルークが『ワウ!』と吠える。


『せっかく狩ったドラゴンをまだ食べてない』

「あー……」


 そういえばルークが美味しそうと言っていたのを思い出し、太一は頷く。さすがに、一応は助けてもらった……はずなので、ここでマテは申し訳ない。

 太一から許可が出たルークは、嬉しそうにドラゴンにかぶりついた。


(しかしドラゴンの生肉を食すのか……すごいな)


 ぼへーっと眺めていると、そういえばご飯調理というスキルがあったことを思い出す。もしかして、あのドラゴンを使って調理することも可能だろうか? と。


(ものはためしだ)


 太一はルークの隣にいって、スキルを使う。


「……ドラゴンの肉を使って、【ご飯調理】」


 すると、自分の前にウィンドウが現れた。


 《調理するには、材料が足りません。ドラゴンの肉、魔力草があればドラゴンステーキが作れます》


「なるほど、材料が……」

『お前、調理スキルまで使えるのか!? テイマーがスキルで作った飯は、すごく美味いと聞くぞ……!』


 めちゃくちゃルークの目が輝いて、尻尾もぶんぶん振られている。食べたいという強い意志がものすごいプレッシャーになり太一を襲う。


 材料が足りないなんて、口が裂けても言えない雰囲気だ。


(魔力草があればいいんだけど……)


 周囲を見回すと、見たことのない草がたくさん生えている。もしかしたら、あの中に材料となる魔力草があるかもしれない。


「……よし、【慧眼】」


 鑑定するためにスキルを使うと、すぐに情報が浮かんできた。どうやら、対象の名前とその説明が表示されるみたいだ。


 太一はゆっくり植物を見ていく。『薬草』『魅惑のキノコ』『惑わしの花』……いろいろありすぎて、どれも気になってしまう。

 一つずつ観測していくと、魔力草と表示されているものを発見した。


「これか!」

『魔力草がどうかしたのか?』

「これとドラゴンの肉を使うと、ステーキが作れるんだ。【ご飯調理】!」


 魔力草を摘んでスキルを使うと、ぱっと太一の手が光りドラゴンステーキが完成した。特に何かの過程があるわけでもなく、一瞬で、だ。


(しかもお皿つきだ)


 至れり尽くせりだなぁと太一が思っていた一瞬の間で、ドラゴンステーキはルークに食べられてしまった。どうやら、香ばしい匂いに耐え切れなかったようだ。


「はやっ! ……まあ、いいけど」

『んむ、美味かったぞ。オレのような戦士にはちょうどいい。残りのドラゴンの肉は持っていって、素材として売ればいい』


 どうやら今のステーキでルークのお腹は膨らんだようで、気前のいいことを言ってくれる。


「いいのか?」

『人間は金が必要だと聞くからな。お前はこの世界に来たばかりなのだから、必要だろう?』

「ああ、ありがとう……!」


 太一の目標は、この世界で猫……もといもふもふカフェをすることだ。店舗も見つけなければいけないし、お金はあるに越したことはない。

 素直に礼を言って、太一はドラゴンを魔法の鞄にしまう。鞄より、太一よりはるかに大きかったのにすんなり入ってしまった。


(すごい……)


 まだこの世界に来たばかりだし、森しか見ていないが……この鞄のようにいろいろな魔法アイテムもあるんだろうと想像すると、とてもわくわくする。

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