第6話 初めての街
自分の視界がものすごい速さで動き、風で髪が舞う。こんな疾走感、そうそう味わえるものではない。
『落ちたら面倒だから、しっかり掴まってろよ!』
「もちろんっ!」
太一が街への行き方をルークに確認すると、『数時間』と言われ意気揚々と出発をしたのだが……二時間歩いてもまったく変わらない森の中。
それもそのはずだ。フェンリルであるルークが駆けて数時間で着くだけであって、人間である太一の足では軽く数日以上かかるだろう。
というわけで、ルークが背中に乗せてくれた。
これならば、きっと街に着くのもすぐだろう。
***
そして数時間、街へ着いた。
いきなり大きなフェンリルが現れたら驚かせてしまうかもしれないので、少し離れたところで様子を見ることにする。
ルークは、先ほどのように一メートルほどの大きさになってもらった。
「大きな街だな……」
『確か、この国で二番目に大きな街だったと思うぞ。『レリーム』という名前の街だったか』
「レリームの街か」
この国で二番目に大きな街ということもあり、街道には人の流れができている。辺りを見渡すと草原で、街の西側には農場と郊外の家がある。
そして大きな外壁があり、門から街の中へ入れるようになっていた。中央には大きな建物もあり、なかなか過ごしやすそうだなと思う。
「平和そうだなぁ」
太一がぽつりとつぶやくと、ルークがふんっと鼻を鳴らして『当たり前だ』と言う。
『ここは冒険者たちも多いし、街の兵だっている。ここは見晴らしもいいし、魔物がそうそう襲ってくることもないだろう』
「へぇ……」
魔物がいる異世界で、平和な街というのは太一にとってポイントが高い。
もし外敵対策の薄い村で暮らしてくれと言われたら全力で首を振っていただろう。
(それに、もふもふカフェはお客さんがいないと駄目だしな)
このように大きな街なら、きっとカフェでゆっくり過ごす人もいるはずだ。
「よーし、とりあえず街に入ろう! 実はすごく疲れてて、今日は早く休みたいんだ」
『まったく、軟弱な!』
「あはは」
ふんとえばっているルークだが、その尻尾は揺れているのできっと同じように休みたいか、街が楽しみなのだろう。
のんびり草原を歩き、城壁の前までやってきた。街に入る人で混み合っているけれど、入場はスムーズに行えているようだ。
すぐに太一の順番がやってきた。
「うわ! 大きな犬を連れてるなぁ……。危険はないか?」
門番をしている兵士に問いかけられ、太一は「もちろん」と頷く。
(えーっと、ルークと会話ができるのはスキルがあるおかげなんだよな)
つまり、兵士たちには『わん』としか聞こえないのだろう。
対応をしてくれている二人の兵士に、太一は問題ないことを伝える。
「テイムしてあるので、俺の言うことにはちゃんと従ってくれますよ」
「ん? ウルフ系の魔物だったのか……。テイム済みなら問題ないな、身分証を見せてもらえれば問題なく街へ入れる」
「身分証……」
うっかりしていたと、太一は背中を冷や汗が流れる。
この世界に来たはいいが、身分証になるようなものは持っていない。この世界の人は、生まれてすぐにそういった身分証を発行しているのだろうか。
太一が悩んでいると、『持ってないのか?』と兵士が首を傾げる。
「身分証なしだと、街に入るのに五〇〇〇チェル必要だが……どうする?」
「あ、ええと、ちょっと確認しますね!」
「ああ」
兵士の言葉にほっと胸を撫でおろしつつ、チェルってお金だよな!? と、猫の神様にもらった魔法の鞄の中身を確認する。
(食料とかはあったけど、お金は入ってるのか? チェルって単位)
すると、鞄の中身一覧に財布という単語を見つける。
(これか!)
取り出して中身を確認すると、銀色の硬貨――銀貨が三枚入っていた。
(お金があったのはよかったけど、五〇〇〇チェルが銀貨でどれくらいかがわからないな……)
かといって、ここでお金のことがわからないと言ったらさすがに不振に思われるだろう。太一は仕方なく、「いくらあったかな……」と、財布の中身……ひとまず銀貨二枚を手のひらに出してみた。
これで兵士の反応を見て、五〇〇〇チェルがいかほどか見極める作戦だ。
「お、大銀貨か。それなら釣りを用意するが、銀貨があるならちょうどでもらうぞ?」
「今はこれしかないので、お釣りをもらってもいいですか?」
「ああ」
兵士がすぐに、「五〇〇〇チェルの釣りだ」と言って太一が持っていた銀貨より一回り小さいものを五枚渡してくれた。
(財布に入ってたのは、『大銀貨』だったのか)
そして大銀貨一枚で銀貨が五枚帰ってきた。一〇〇〇チェルで銀貨一枚、一万チェルで銀貨一〇枚か大銀貨一枚のようだ。
「……兵士さん、どこかいい宿ないですかね? お手頃な値段で……」
「そうだなあ……。ここの通りをまっすぐ行って、冒険者ギルドを右に曲がったところにある『三日月の宿』っていうとこなら一泊四〇〇〇で飯も美味いぞ」
「ありがとうございます、行ってみます!」
兵士の答えを聞き、どうやら一チェル=一円くらいの認識でよさそうだ。ここは大きな街なので、辺境に行けばさらに安くなるだろう。
(もふもふカフェのために、市場調査もしないとだな)
コーヒーや紅茶など、種類が豊富だったらいいなぁ。そんなことを考えながら、太一はレリームの外壁の中へ足を踏み入れた。
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