第4話 初めての仲間

『ワウッ!?』


 太一がテイミングのスキルを使った瞬間、白金色の犬がパチパチするような光に包まれた。すぐに消えたが、テイミングが成功したのだということがすぐにわかる。


「……っ」

(はずみで言ったけど、大丈夫……なのか?)


 自分の前に立つ白金色の犬を見て、ごくりと唾を飲む。


(そういえば、スキルの中に会話っていうのがあったはずだ)


 きっと言葉が通じるのだろう。


「あ、あの……」


 おそるおそる声をかけると、ぎろりと睨まれた。


(ひぇっ! もふもふだけど、さすがに怖いぞ!?)


『お前、勝手にテイムするなんて……!!』

「え、あっ、ごめんなさい……」

『孤高のフェンリルであるオレがテイマーに従えられるなんて、最悪だ!』


(あーーやばい、めちゃくちゃ怒っている……)


 そして絶対に嫌われている。


(でも、会話ができてよかった)


 そのことに太一がほっとするも、白金色の犬――もといフェンリルは、喋り続ける。


『せっかく美味そうなドラゴンを倒したというのに、お前のせいで気分は最悪だ。しかも人間の主人? 笑わせる!』

「あ、あはは……」


 いつ攻撃されてもおかしくなさそうな状況に、太一は冷や汗をかく。

 テイミングはしてしまったが、特に縛ろうとは思っていないからこのまま別れよう……というのは、やはり無理だろうか。


 そんなことを考えていたのだが、ふと……気づいてしまった。


(え、ちょ、フェンリルめっちゃ尻尾が揺れてるけど!? もふもふだけど!?)


 口ではつんけんしたことを言っているが、よくよく動作を見ると嬉しそうだということが読み取れる。

 もしかして嬉しいのだろうかと、太一は首を傾げる。


 そして思い出すのは、自分の職業だ。


(もふもふに愛されし者……だからか?)


 フェンリルも口では悪態をついているが、自分のことを好意的に見てもらえているのかもしれない。

 このまま一人で森にいたら命の危機なので、仲間がいるのはとても心強い。


「えーっと、もしよければ仲間になってもらえませんか? テイムした後に言う言葉じゃないかもしれないけど」

『何!? お前ごときが孤高の戦士のオレを仲間にしようというのか!?』


 口では怒っているようだが、やっぱりフェンリルの尻尾は揺れている。


『……しかしまあ、お前はとても弱そうだからな。オレが一緒にいてやった方がいいだろう』


 フェンリルはふんと鼻を鳴らし、仲間になることをあっさり同意してくれた。さすがにもう少し反対されるかもしれないと思ったけれど、そうでもなかったようだ。


「じゃあ、よろしく。俺は太一……タイチ・アリマだ」

『タイチか。それじゃあ、オレに名前をつけろ』

「え?」

『基本的に、魔物には名前がない。あって呼び名くらいだ。だから、テイマーはテイムした際、魔物に名前をつける。そんなの常識だろう』


 フェンリルの言葉に、なるほどと太一は頷く。

 猫の神様にテイマーにしてもらったはいいが、自分の職業のことを詳しく知らなかった。


(街に辿り着いたらいろいろ調べないといけなさそうだ)


「教えてくれてありがとう。まだ駆け出しのテイマーで、君が俺の仲間一人目なんだ」

『何? てっきり熟練者だと思ったが……まあいい。早く名前をつけろ!』

「わかったよ……そうだな、ルークはどうかな?」

『ルーク、ルークか……ふむ、なかなかいいじゃないか! 俺様のような格好いいフェンリルにピッタリだな!』


 どうやら気に入ってくれたようだ。


「よろしくな、ルーク」


 太一がそう言ってルークの前足に触れると、柔らかなもふもふに手が包まれた。まるで天使の羽にくるまれているような感触に、思わず震えてしまう。


(今までたくさんの猫をもふもふしてきたけど……)


 ここまで最高のもふもふは、初めてかもしれない。

 優しく前足を撫でると、ルークは嬉しそうに尻尾を振る。どうやら、撫でられるのが好きみたいだ。

 太一はもふもふするのが好きなので、最高のパートナーなんじゃないだろうか。


 もふもふを堪能するために撫で続けていると、ルークがハッと目を見開く。


『お、おい! いつまで触ってるんだ!! オレは高貴なる伝説の魔物フェンリルだぞ! 人間がそう簡単に触れていい存在ではないというに!!』

「…………」


 気持ちよさそうだったくせに、と言ったら怒りそうだなぁと太一は苦笑する。

 どうやら、ルークは孤高の戦士でいたいがために太一との慣れあい、もといスキンシップをよしとしないようだ。


(確かにスキンシップをしたら孤高の戦士ではなくなる……)


 難儀な性格のフェンリルもいたもんだと、太一は思う。

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