第3話 初めてのテイム
風が頬を撫で、何か柔らかいものが頬に触れる。まだ寝ていたいという気持ちを抑えながら、太一はゆっくりと目を開ける。
納期は目前だから、早く仕事を片付けなければ――と。
「……んんっ?」
しかし目を開けるとどうだろうか、そこはただただ広い森の中だった。
(あ、そうだ……猫の神様に出会ったんだった)
自分は死に、異世界にきたのだということを思い出す。
「ということは、ここが異世界か……」
どうせなら森の中ではなく街に送ってほしかったけれど、いろいろと気遣ってもらったのでこれ以上望むのはやめておこう。
文句を言ってもどうしようもならないことなんて、仕事を押し付けてくる営業との戦いで嫌というほど知っている。
「さてと、まずは現状確認だ。猫の神様の話だと、この世界は魔法を使えて、俺はテイマーにしてもらえるっていう話だったかな」
こういう場合、自分のスキルなどを確認できるはずだと太一は考える。
「自分の能力の確認ができないのは、不便だからな。『能力表示』! ……駄目か。それなら、『ウィンドウオープン』『詳細表示』……【ステータスオープン】!」
太一が最後に【ステータスオープン】と言った瞬間、目の前に自分の状態が書かれたウィンドウのようなものが現れた。
「よし、ビンゴ!」
タイチ・アリマ 二八歳
職業:もふもふに愛されし者
◆固有スキル
【慧眼】Lv∞
:すべてを見通すことができる、鑑定の最上位スキル。
【もふもふの目】Lv∞
:もふもふの魔物・動物と視界を共有できる。
【創造(物理)】Lv∞
:無機物であればなんでも作れる。
【お買い物】Lv∞
:猫の神様に日本でお買い物をして来てもらえる。
◆職業スキル
【テイミング】Lv∞
:魔物をテイムすることができる。
【会話】Lv∞
:魔物と会話をすることができる。
【調教】Lv∞
:魔物が命令を聞いてくれる。
【索敵:魔物(固有名可)】Lv∞
:魔物の居場所がわかる。
【やっちまえ!】Lv∞
:仲間の攻撃力が上がる。
【慎重にいこう!】Lv∞
:仲間の防御力が上がる。
【絶対勝てる!】Lv∞
:仲間の魔法攻撃力が上がる。
【ヒーリング】Lv∞
:仲間の魔物を回復する。
【キュアリング】Lv∞
:仲間の状態異常を回復する。
【ご飯調理】Lv∞
:食事を作ることができる。
【おやつ調理】Lv∞
:おやつを作ることができる。
「うおっ!? え? あ? 待って、スキルってこんなにいっぱいあるもんなのか?」
予想よりズラ~っと並んだスキルに戸惑いつつも、自分の職業のところを見て首を傾げる。
「なんだ? この、『もふもふに愛されし者』って……。俺の職業はテイマーにしてくれるって言ってたはずだけど……」
何か不手際でもあって間違えてしまったんだろうか?
けれど、職業スキルを見る限りではテイマーに見える。魔物をテイムし、従えることができるし……支援するためのスキルも揃っているようだ。
「しかも、レベル無限ってどういうこと……」
これじゃあ無敵だろうと、太一は苦笑する。
だってこれなら、今ここにドラゴンが現れたとしても簡単にテイムできてしまいそうだ。なんといっても、テイミングのレベルも無限大だ。可能性がすごい。
(なんて、これじゃあフラグみた――)
太一がそう考えた瞬間、背後の木がガサリと大きな音を立てた。
(はい?)
まさかそんな、異世界に来てすぐお約束のようなことをやらかしてしまうなんて。そう思うが、別にまだドラゴンが出たと決まったわけではない。
それに、ドラゴンはとても珍しくて、なかなか出会えないなんてのはよく聞く話だ。……ドラゴンばっかり出てくるゲームもあるが、それは今考えてはいけない。
嫌な汗を背中に感じつつ振り返ってみると、そこには赤い鱗を光らせたドラゴンがいた。
「――っ!」
ひゅっと、息を呑む。
相手の体長は五メートルほどで、はたしてドラゴンと考えたときに大きいのかと言われるとわからない。もしかしたら、小竜なのかもしれない。
けど、そんなことは問題じゃなくて。
(に、にに、に、逃げないと……っ!!)
しかし、太一の体はすくんで思うように動かない。
ドラゴンから見たら、ちょうどいい餌のように見えているかもしれない。太一がそんな恐怖に襲われていると、ドラゴンが口を大きく開けて火を吐いた。
『ギャルルッ』
ゴウッ! っと大きな音を立て、それは太一の真横を過ぎて後ろの木々を爆発するように倒す。
「ひぇ……っ」
(逃げな――いや、ドラゴンも魔物だから、テイムすればいい……のか?)
いい作戦かもしれない。
――が、ドラゴンをテイムしてどうすればいい? と、頭の中が混乱する。だって、こんな大きな魔物を連れていたらきっと目立つだろうし、猫カフェだってできないかもしれない。
しかし次の瞬間、白い何かが太一の前に飛び出してきた。
「な……っ!?」
なんだと声をあげるよりも早く、その白いものはドラゴンの首元に噛みついた。
それは金色がかった白い毛の、犬のような魔物だった。ふわふわと柔らかそうな毛並みだが、その瞳は鋭く睨まれたら動けなくなってしまいそうだ。体長だって、二メートルはありそうだ。
『ワウッ!』
白金の犬は、次に尖った爪でドラゴンを攻撃すると――あっという間に倒してしまった。
「……はっ」
太一が思わずほっと胸を撫でおろすと、白金の魔物が今度はこちらに向かって駆けてくる。次の獲物は自分か、そう判断した太一は気づいたら叫んでいた。
「――っ、【テイミング】!!」
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