第2話 猫神様に愛されし者

 猫の神様が言うには、地球で生き返らせることは不可能だが、別の――異世界でなら生き返ることができるのだという。

 そこは科学文明の発達した地球とは違い、魔法が発達したいわゆるファンタジーな世界。


「でも、言いたくないですけど……俺は体力もないし、そんな世界に行って生き延びれる自信がないですよ……」


 街中で普通の仕事をして生活する分には問題ないが、魔物がいると言われたらとても怖くて街から出られなくなってしまう。

 せめてあと一〇歳ほど若かったら違ったかもしれないが……。


 太一がそう言うと、神様が『にゃー』と笑う。


『そのまま異世界へ放り込むような意地悪はしません。にゃ。向こうの世界でも生きていける力などは、ちゃんと授けますよ。にゃーん』

「それはありがたいです! なら、お願いしたいです」


 すぐに太一が返事をすると、神様は嬉しそうに頷いた。


 正直なところ……太一はまた社畜に戻るのはうんざりだった。どうせ彼女もいない独り暮らしで、両親ともすでに他界している。

 一つ気がかりなことがあるとすれば、残してきてしまった同期だろうか。一緒にやっていたほかの案件が同期にのしかかると思うと、震えてくる。


(すまん……強く、生きてくれ…………)


 太一が同期への祈りを捧げると、神様が『さて。にゃ』と続けた。


『向こうの世界では、どうやって生きたいですか? 魔法を使いたい? 冒険者になり剣や魔法を使って魔物を倒したいですか? もちろん、それ以外に希望があればどうぞ。にゃ』

「俺のやりたいこと、ですか……」


 神様の言葉に、太一は悩む。

 正直、今から冒険者として体を張って生きていくのは辛い。なので、戦う系統の職業に就くというのは却下だ。


 それから絶対に駄目なのは、ブラックな勤め先だ。

 これだけは譲れない。再びブラック勤めになるなら、生き返らない方がましだ。


(第二の人生になるなら……好きなことをして過ごしたい、かなぁ)


 そうなってくると、太一の選択肢は絞られてくる。


(……あ!)


「それなら俺、異世界で猫カフェを開きたいです!」


 これなら、毎日が癒し空間だ!

 しかも自分の店なら営業時間だって好きに決められるから、ブラックと化すこともない。なんて名案なんだろうと、太一は思わずにやけてしまう。


『そこまで私たちの種族を愛してくれているんですね……ありがとうございます。にゃーん』


 もしかしたら猫カフェなんてけしからん! と、怒られてしまう可能性もあったが大丈夫だったようだ。

 太一はほっとして、神様を見る。


『ただ、向こうの世界にいる動物などの生命体を直接与えることはできないんですよ。私にできることは、今ここで、与えられるものを贈る……ということです。にゃ』

「あ、なるほど……」


 確かに、猫をくれ……というのもなかなか難しい話だったかもしれない。


『ですので、『テイマー』になるのはいかがですか? にゃ』

「テイマーって……ゲームとかで、魔物を仲間にして使役するあのテイマーですか?」

『そうです。魔物という条件はついてしまいますが、テイマーになれば猫に似た魔物を仲間にすることもできますよ。ほかにも、猫に似た可愛いもふもふの魔物もいますから』


 神様の言葉に、太一は息を呑む。


(もふもふを仲間にできるなんて……最高だ!)


「ぜひそれでお願いします!!」

『わかりました。では、テイマーが覚えられるスキルを全て授けておきますね。にゃ』

「ありがとうございます!」

『それから……これをどうぞ。にゃ』


 神様が、こたつの中から鞄を取り出して太一へ渡してくれた。どうやら、餞別のようだ。


「ありがとうございます。中は……って、なんですかこれ!?」

『それは魔法の鞄です。無限に物が入り、時が止まっているので有効活用してください。今は、食料やお金など必要だと思ったものを入れています。にゃー』


(異世界ってすごいな……便利だ)


 すると、太一の目の前に突然ホログラムプレートが現れた。


「おわっ」

『そこに、中に入っているものが書かれていますよ。にゃ』

「あ、なるほど……」


 驚いてしまったが、確かに中に入っているものがわからなければどうしようもない。普通に鞄の中を見ると、まるで異次元に繋がっているような不思議な空間になっているから。


(入ってるのは、干し肉に、水に、黒パン……非常食?)


「あの」

『はい? にゃ』

「向こうの世界の食生活って、どうなっていますか?」

『味はこっちとそんなに変わらない感じですね。魔物を食材として使うこともあります。ただ、レパートリーはこちらの世界ほど多くはありませんね。にゃん』


 太一の質問に答えた後、神様は『うぅ~ん』と悩む。

 決して不味いわけではないのだが、自分を助けてくれた太一に食で苦労させるのは嫌だと考えているようだ。


 神様はしばらく考えたあと、ぴんと耳を立てた。


『いい固有スキルがあるから、それもつけておきますね。にゃ!』


 これがあればきっと苦労しないだろうと、神様が言う。


「ありがとうございます!」

『これくらいお安い御用ですよ。にゃ。……では、そろそろ向こうの世界へ送りましょうか。助けていただきまして、本当にありがとうございました』

「いいえ、神様が無事でよかったです」


 神様の言葉に笑顔で返事をすると、太一の体はゆっくりと意識を失った。

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