第41話 肉食


 言葉を言い終えると、妹はオレの唇を奪った。

 夜のこともあって疲れていたオレは妹を受け入れ、しばらくの間彼女の好き勝手にさせた。

 オレの体を洗った後、怜は自分の体を洗い始めた。オレの視線を誘うように何度もこちらを振り向き、えっちなどと呟いては一人で笑っていた。

 何度も見てきた妹の体だが、こうも扇情的なものを見せられては流石に耐えられない。


「うっ」

「お兄様ったら妹の体で欲情しちゃうんですね」


 オレの反応を見て、妹は嬉しそうにしている。実に腹立たしい。


「うるさいな。仕方ないだろ」

「でも嬉しいです。お兄様があたしで興奮してくれるなんて」


 妹はそう言って、妖艶な表情を浮かべる。左人差し指をペロリと舐める仕草が

とてもエロティックだった。

 それから妹はゆっくりと近づき、オレの体に抱きついてくる。

 そして耳元で甘く囁いた。


――ねえ、続きしよう?


 オレはその言葉に抗うことなどできず、妹に身を任せることにした。やっぱり妹の素肌は柔らかく、愛おしい。

 オレたちはお互いに名前を呼び合いながら、深いキスを交わす。お互いの舌を絡ませあい、唾液を交換する。

 オレは段々と、怜の積極的な行動に毒されていっており、かかったエンジンを自分では全く制御できなくなっていた。


「んちゅ……」


 やがて妹がオレの胸に触れ始めると、オレの方も負けじと彼女の胸に手を伸ばす。すると彼女は小さく声を出しながら、ビクッと身体を震わせた。そこも可愛らしく、オレは執拗に攻め立てる。

 オレたちはしばらくの間、風呂場で互いの体を貪り合った。どちらかというと、妹が受け身な傾向のオレを、彼女がリードする形になっていた。


「はぁ……はぁ……」


 ようやく満足したのか、妹は息を荒げているものの、未だに余裕のある顔をしている。対してオレは疲労困ぱいといった様子だ。スポーツに積極的に取り組む彼女とそういうのとは無縁なオレとの差が表れていた。


「今日も楽しかったぁ」


 今日も一緒に湯船に浸かった後、妹はいつものようにオレの腕にしがみついてくる。そしてその体勢のまま、今日の感想を語り出した。

 その内容は主にオレについてのことだったが、どれも褒めるものばかりであり、聞いているだけで恥ずかしくなる内容ばかりだった。

 そんな風に、妹によるオレの自慢話が続く中、ふと出入口に人影があることに気付かされる。


「……」


 そこには花崎さんの姿があった。

 彼女は呆然と立ち尽くしており、今の状況が信じられないという面持ちだった。

 オレたちの様子を見て、どうしていいかわからず固まってしまっているようだ。


「あの女ぁ……たかが妹の分際で……」


 現実に引き戻されたオレは間違い無くやらかしたと思うも、抱きついている妹を引き剥がすことはできず、事態は悪化の一途を辿っていることを自覚するばかりである。

 花崎さんの表情は見るからに曇っており、今にも泣き出しそうなくらい悲しげなものに変わっていく。

 まずいことになった。

 この状況をどう打開すべきなのか、オレには皆目検討もつかなかった。

 しかし、そんな状況を打破してくれたのは意外にも花崎さん本人であった。

 彼女は涙を堪えるようにその場を去る。


「家に泊めてやるとは言いましたが、お兄様を渡すとは一言も言っていませんよ」


 修羅場にはならずに済んだが、花崎さんの心にはきっと大きな傷が残ったことだろう。

 魔が差し、安易に妹とイチャイチャしてしまった愚かな男の末路としては、あまりにも惨めすぎる結末となってしまった。

 妹の誘惑にあっさり負ける弱さはさることながら、逃げる花崎さんを追い掛けることもしないヘタレぶりを自虐したくもなる。


「お兄様? どうかしました?」


 腕を抱き締めたままの妹は、不思議そうに首を傾げる。ニヤニヤと笑う彼女は花崎さんにしてやったりとでも思っているのだろうか。


「なんでもない」


 妹の挑発的な態度が気に食わなかったオレは、彼女の頬を引っ張ってやった。

 妹は痛いと言いながらも、どこか嬉しそうだ。オレに何をされても、彼女にとっては快感にしかならない。


「ぐぬぬっ、お兄様ったら、あたしのほっぺたをいじめるなんて悪い子ですね」


 オレのせいで花崎さんは傷ついてしまった。謝って許される問題ではないだろうが、それでもオレは彼女に謝りたいと思った。

 

「あの、花崎さん」


 妹よりいち早く上がり、着替えてからすぐに花崎さんを探そうとするが、彼女は意外にもリビングでお茶を啜りながら寛いでいた。

 取り乱したあの感じだと、もう帰ってしまったものだと思っていたのだが。

 オレの声に反応した花崎さんは、こちらを振り向くなり、勢いよく立ち上がる。そして早足で歩み寄ってきたかと思うと、オレの両肩に手を置いて詰め寄り始めた。

 その表情は怒りというよりも、待望していたものを手に入れた喜びに近い。


「んふっ、橘くんって妹ちゃんにモテモテだね」


 胸を押しつける形でにじり寄ってきた彼女はオレの耳にあえて吐息をかけるようにしながら囁いた。

 妹と違って、ふわふわとした見た目でかつわざとらしい甘え声を出しているのが妙に艶っぽい。


「あ、ああ……」

「ねえ、橘くん。罪悪感からかなり取り乱していたみたいだけど、妹ちゃんとどこまでいったのかなぁ? 正直に教えて欲しいなぁ〜」


 妹との情事を事細かに説明するのは恥ずかしいものがあるが、ここまで来て誤魔化すこともできない。それに花崎さんはある程度事情を知っているみたいだし、隠す選択肢はほとんど潰れている。


「キスまでだよ。あとは軽く体を触り合うくらい」

「一線は超えないんだ。うぶだなぁ」

「怜にも似たようなことを言われたよ」


 オレの答えを聞いた花崎さんは、クスッと小さく笑い声を上げる。

 オレたちはソファーに腰掛けており、彼女はオレの太ももの上に座っている状態だった。

 オレの頭を撫でたり、耳元に息を吹きかけたりと、花崎さんはやりたい放題を働いている。


「それにしても、妹ちゃんがあんなに肉食だとは思わなかったよ。もっと強かだと考えていたから面食らっちゃった」

「オレも最初は驚いたけど、慣れれば可愛いもんだよ」

「そういうもんなんだ。じゃあさ、わたしも妹ちゃんみたいなことしたらダメかな?」


 妹のような積極性を発揮するつもりなのか、花崎さんはオレの顔をじっと見つめてくる。

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