第26話 妹 その4


「そろそろ寝るか」


 時刻は既に11時を過ぎており、明日も朝早いため、オレは寝室へと向かう。

 ベッドに潜り、明かりを消すと、静かなこの部屋には風呂場からの水の音が聞こえてきた。どうやら、怜が風呂に入っ

ているらしい。

 オレは眠りにつこうと、瞼を閉じる。しかし、目を閉じても一向に眠気が訪れる様子は無く、むしろどんどん目が冴えていく一方だった。


「はぁ……」


 オレは溜め息をつくと、仰向けに寝返りを打ち、天井を見る。

 妹がいつかあのヤバそうな性格を暴露し、襲い掛かってくるかもしれないと考えるだけで背筋が凍る思いだ。

 今までは無自覚なのが良い方向に転がり、どうにか上手くやってきたつもりだ。だが果たして、これから先も同じ調子でやっていけるのだろうか。

 オレは不安を抱きながらも、次第に意識が遠退いていき、そのまま深い眠りにつく。

 


 あたしはお兄様の入った後のお風呂に入る。

 脱衣所はお兄様の匂いでむせかえっており、呼吸をする度に鼻腔を刺激する。


「ん、んあぁ、お兄しゃまぁ」


 うっかり意識を失ってしまいそうになるが、なんとか堪えてシャワーを浴び始める。


「ああ、お兄様。どうしてこんなに良い香りなのかしら」


 彼の残り香はあたしにとって麻薬のようなもの。嗅ぐだけで脳が蕩けてしまうような感覚に陥る。

 あたしがこうなってしまったのは、きっとお兄様の血筋、つまりあたしがお兄様の妹であるから。あたしは精神崩壊をした日から、お兄様の血と肉と骨と魂が欲しくて堪らなかった。でも、ずっと我慢している。

 もしあたしが想いを伝えたとしても、お兄様は絶対に受け入れてくれないと分かっていたから。兄妹という関係を盾にされる否定されるのは目に見えていた。

 だから、今はまだこの関係に甘んじている。まだ大丈夫、もう少しくらいは耐えられる。


「はぁ……もっと一緒に居たいなあ」


 この気持ちを言葉にすると、自然と笑顔が溢れ出してきた。そして、あたしは鏡を見て、自分の顔を確認する。


「ふふっ、やっぱり可愛いわよね、あたしって。さすがはお兄様の妹なだけあるわ」


 お兄様の素晴らしい遺伝子を引き継いでいるからこそ、今の自分が存在している。

 あたしはお兄様の神々しさを宿したこの体を眺めながら、全身をくまなく洗っていく。精神崩壊する前を保っている、背中まで伸ばしたギャルっぽい金髪を丹念に洗い、太陽光に焼かないように対策している白い腕やくびれた腰も見逃さない。


「ちゃんとここも洗わないと。お兄様、最近凝視してくるし」


 あたしはボディソープを手に取り、泡立てると、その手を胸に持っていく。


「んっ、あん、はぅ……」


 あたしは自分の胸を揉んでいる。

 あたしのおっぱいは他の子よりも大きいらしく、そのせいで肩がこったりして困っていたりする。だけど、そんな悩みさえもお兄様に見られるという一点だけで愛おしくて仕方が無い。

 あたしは両手を使って二つの膨らみを刺激しながら、ボディソープを塗っていく。

 

「あっ、んっ、ふぅ……」


 その手はお兄様が使ったお湯へ向かっていく。お兄様にはお湯はあたしが入る時に張り替えていると言っているけど、それは嘘だ。

 あたしは決まってお兄様の後に入り、お兄様の使用済みのお湯を堪能していたのだ。


「はぁ……ああ、最高よぉ」


 あたしは手でお湯を掬い、かけ湯の要領で体についた泡を流していく。


「んあっ、はぁぁん、お兄しゃまが体に染み渡っていましゅ!」


 あたしはお風呂場に備え付けてあった鏡で確認する。そこには頬を赤く染め上げ、瞳を潤ませた美少女がいた。

 自分で言うのも何だが、かなり可愛らしい容姿をしていると思う。しかも、この体はお兄様の好みに合わせるために努力をして整えたものだ。

 あたしはまだかけ湯をしたいという名残惜しい気持ちを抑え、シャワーで体の泡を流すと、浴槽に浸かる。


「やっぱりかけ湯とは、刺激が段違い! ああっ!」


 お兄様が入った後の湯船にあたしの全身を浸けると、あまりの快感に声が出てしまった。

 これはもう、一種の儀式と言っても良いだろう。


「はぁ、ううっ、お兄様に包まれているみたい!」


 あたしはそれから複数のシリンダーを駆使してお湯を回収したり、お湯を飲んだりと好き勝手に振舞っていた。

 そこにはお兄様の髪の毛の切れ端も散らばっている。あたしはそれを拾い集め、これも口に含む。


「んちゅ、じゅる、ぺろっ」


 舌の上で転がすように味わうと、まるでお兄様が舐めてくれたような錯覚に陥る。


「はぁ、ああ、お兄様ぁ」


 あたしはお風呂場で一人、お兄様との幸せな時間を妄想しながら、お兄様のエキスを飲み続ける。その風味はあたしの脳を溶かし、壊すのに十分過ぎるものだった。


「あはぁ、今日も幸せぇ」


 風呂を上がり、掃除を完了させた後、あたしはお兄様への想いを募らせながら夜を過ごす。

 自室に隠している冷蔵庫にお兄様のエキスを貯蔵したシリンダーを隠し、他にお兄様の私物や衣類などをクローゼットに隠し持っている。


「お兄様の香りぃ~」


 ベッドに横たわり、お兄様に何年か使わせた後こっそり交換した枕に顔を埋めて思いっきり吸い込む。お兄様の残り香が鼻腔を刺激する。


「おおっ、おごっ、これ、しゅごっ」


 刺激を受けて、目の前が点滅したようにチカチカとしだす。頭がくらくらして、心臓が激しく鼓動を打ち鳴らす。

 あたしは枕に顔を擦り付け、何度も深呼吸を繰り返す。お兄様の匂いを取り込んでいると、次第に落ち着いてくる。

 しかし、落ち着いたところで次に起こるのは、お兄様の温もりを全身で感じたいという欲求だった。


「…………よし」


 あたしは部屋にあるタンスの中から、お兄様のシャツを取り出した。この前こっそり、新品と取り替える形で盗んできたものだ。


「ああんっ、お兄様のお洋服!」


 あたしはそのシャツに顔を埋めると、お兄様の残り香を嗅ぎまくった。その瞬間、再び意識が飛びそうになるほどの衝撃を受ける。


「はぅっ! んんっ、しゅきっ、だいすきっ!」


 あたしは狂ったようにお兄様の服を抱き締めると、頬ずりする。そして、口元を歪ませながら、お兄様の着ていた衣服を口に含んでいく。


「んっ、んぐっ、んふぅぅっ!」


 お兄様の服を着たまま、あたしは気持ち良くなった。

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