第4話 ワンコ
花崎さんとはその後も楽しげに喋り、オレもそれに相槌を打つ。
やがて昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く時間間際になり、オレたちは一緒に教室に戻る。
「迷子にならないように手を繋ごっか」
そう言って花崎さんは、オレの手を取って歩き始めた。
オレはその温もりに驚きつつも、されるがままになっていた。彼女の柔らかい手に握られていると思うとドキドキして落ち着かない。
花崎さんは終始上機嫌で、オレもその横顔に見惚れていた。しかも手の繋ぎ方が恋人繋ぎであり、オレは心臓をバクバクさせていた。
花崎さんはとても可愛らしくて、まさに美少女と呼ぶに相応しい容姿をしている。そんな彼女とこうして並んで歩くのは、非常に誇らしかった。
そのままオレたちは仲良く歩いていたのもあって、周りからの視線が痛い。
特に男子連中からは嫉妬の目線が飛んできて、とても居心地が悪い。
「花崎さん、そろそろ離してくれないか」
「もうちょっとだけお願いします! あと一分! あと一分だけでいいから!」
オレの言葉に花崎さんは駄々っ子のように喚く。
花崎さんは何故かオレのことを気に入ったようで、事あるごとに接触してくる。
オレとしては別に嫌というわけでは無いのだが、周りの目が辛いので出来れば止めて欲しい。
結局花崎さんに引きずられる形で、オレは教室に戻ったのであった。
授業が終わり、放課後になるとようやく解放感を得られる。
「今日はどうしようかな」
いつもなら帰宅部として真っ直ぐ家に帰るところだが、そうは問屋が卸さない。見るからにチャラチャラした童顔のギャルが教室に入ってくる。
「ねーねー、大和くん、あたしと帰らない?」
彼女は別のクラスの美少女、名を藤宮莉奈と言う。
彼女もこの学校で人気のある女子だ。
艶のある長いピンクの髪に、透き通るような白い肌。整った目鼻立ちはまさしく美人そのものであり、その上スタイルまで抜群ときている。おまけに性格も人当たりが良く、誰からも好かれるような存在だ。そんな彼女だが、やけにボッチのオレを気にかけてくる。
彼女の頭上には16の数字が浮かんでいた。花崎さんより低いが、周りに比べたら俄然高い。
「えっと、今日は一人になりたいんだ」
「なんで? 他の雌と帰るとか」
「いや、そういうことじゃなくてさ」
オレは苦笑いしながら言う。
すると彼女はオレの腕を掴んでくる。
「ねー、大和くんの好きなもの作ってあげるよ」
「えっ、マジで」
「うん、だから早く帰ろう」
彼女の体付きは花崎さんほどむちむちではなく、全体的にすらっとしているのが特徴であり、オレの好みドストライクなのだ。そんな彼女に密着されると否応なく興奮してしまう。
「分かった。それじゃあ行こうか」
「やったー! 大好きだよ、大和くん」
彼女は嬉しそうに笑うと、オレの手を引いて歩き出す。莉奈は界隈では有名な実況者であり、主にゲーム実況をネット配信している。
最近は動画編集も自分でやっているらしく、かなりの腕前である。攻めがランカーとしてはトップクラスであり、その人気ぶりは凄まじい。
花崎さんもそうだが、そんな彼女が何故オレのような陰キャを気に入っているのかは分からない。
「なぁ、なんでオレなんだ?」
「え? だって大和くんって優しいし、何より可愛いじゃん」
「優しいはともかく、可愛いってのはちょっと分からんが」
花崎さんにしろ、莉奈にしろ美少女なのは間違いないが、それでも自分よりも遥かに優れた容姿の女の子から言われると、流石に照れる。
しかし同時に嬉しさもある。やはり褒められて悪い気分にはならない。
オレよりはるかに小柄な彼女は、笑顔を称えながらチョロチョロと動き回る。
オレは走り回っている彼女に母性のようなものを感じ、微笑ましく見守る。
そのまま校門を出ると、オレたちは手を繋いで歩き出す。
まるで彼女はワンコのようだ。
荒い息を漏らし、オレの後を付いてくる。
そんな彼女の頭を撫でてやると、気持ち良さそうな声を出す。
「くぅーん、はっ、はっ、はっ」
「犬みたいだな」
「だってあたしは大和くんの犬だし」
「……」
冗談で言ったつもりなのに、あたかも本気みたく返されると、こちらの返事に困る。
「でもあたし、本当に大和くんのこと好きだから」
「そっか」
「うーん、反応薄いけどまあいいか」
莉奈はオレの反応が不満なのか、頬を膨らませる。彼女はおふざけや冗談を平気で言うから、いまいち信用が無い。接しやすくはあるけど。
「ねえ、今から時間あるかな」
「まあ、6時くらいまでなら」
「じゃあ喫茶店に行かない? 大和くんとじっくりお話したいんだ」
今の時刻はざっと4時くらい。店で茶をしばきながら、軽く雑談をするには丁度良い頃合いだ。
「いいよ、そうしよう」
「わーい、ありがと」
近場にあるカフェで適当にくつろぎながら、オレたちは他愛無い話に興じていた。
「大和くんはどんな人がタイプ?」
「そうだな……」
「やっぱり胸が大きい人?」
「それは人によるかな」
「あたしのはどう?」
目の前に座る莉奈は自分の大きな胸に手を当て、挑発的な笑みを浮かべてくる。
「悪くはないと思う」
嘘だ。めちゃくちゃ柔らかくて、指を押し返す弾力がある。しかもノーブラだ。
そんな彼女はオレの言葉を聞くと、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「良かった。ちゃんと触ってもいいんだよ?」
「いや、遠慮しておく」
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
そう言って彼女は身を寄せてくる。彼女の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、心臓の鼓動が早まる。
「あのさ、どうしてオレなんかと一緒に居てくれるんだ? 他にも友達居るだろ」
「えー、別に理由なんてないよー。強いて言えば、あたしはキミのワンコだからかな」
「なんだそれ」
ワンコとか、よく分からない理由を言われても反応に困り、オレは言葉を返せなくなっていた。そんなとき、スマホの着信音が鳴り響く。
「あっ、ごめんね。ちょっと待ってて」
オレは莉奈から離れ、電話に出る。
「もしもし、うん、大丈夫。まだ学校。え、早く帰って来い?」
『誰といるの?』
「いや、ちょっと莉奈と喫茶店で話していたんだ」
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