unknown

 なぜ人は同じ道を辿るのか。

 人気なものは様々な人に利用され、飽きられ、捨てられる。

 わかっていてもそれに希望を見出すのは、きっと何かに縋りたいからなのだろう。

 

 

 

 笑顔を振り撒き、時折涙声になりながら話をする画面をそっと閉じる。有名バーチャルライバーの引退配信にはたくさんのコメントが溢れていたし、たくさんの課金アイテムが飛び交っていた。もう会えなくなるからと、これが最後だからと。

 ――そんなの、嘘なんだけどね。

 一年前、彼女は炎上した。きっかけは食事に関する些細なことで、それでも人気者へのジェットコースターに乗っていた彼女にとっては恰好のネタだった。掲示板ではリスナーだけでなく同じ配信者からも叩かれていたのは面白かったな。ネットの世界といえども結局は蹴落とし合うのか、と。

 結局彼女は途中下車を余儀なくされて、爆発的に増えていたファンの数もゆったりと増えるだけに。それでも有名配信者には変わりないし、リスナーは変わらず彼女を推していた。変わったのは、彼女自身。配信を通じて徐々に大きくなっていた自己顕示欲は、もう手のつけられない化物になっていたのだ。

 結果的に彼女は【炎上した過去】を捨てるために【ついてきたファン】を捨てた。来週からは別のビジュアル別の方向性で、有名事務所からデビュー予定。

 なんてくだらなくて、つまらなくて――人間らしいのだろうか。

 

 そんな情報はきっと俺以外にも入手している人はいるだろうし、デビューしてしまえば前世探しが始まるに決まっている。それもきっと、事務所も彼女も計算済みだろう。むしろそういった層に取り上げられること自体が広告になる。

 でも、面白くない。

 【ガワ】だけを変えて新たな配信者としてデビュー?

 中身は何一つとして変わっていない。どうせまたどこかで揚げ足をとられるのだ。そうしたらまた彼女はなにもかもを捨てて新しい「自分」として活動していくのだろう。

 それができるのがネットのメリット。でも、それから逃れられないのがネットのデメリット。


「……そっか、僕がやればいいのか」


 作ればいいのだ。

 モデルを。

 VTuberを。

 それを管理して、彼らの記録をして、失敗しないように進めていく。

 なんでこんな簡単なこと思いつかなかったのだろう。いろんなVTuber事務所ができた今、魂オーディションだのスカウトだのたくさんあるじゃないか。

 そしてそれに群がる【被験体候補】だって山ほどいる。

 言ってしまえば、こちらが選ぶ立場になることができるのだ。

「さーてと、はじめよっかなー」

新しいゲームを。

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