第4話 手柄の横取り

「遅いぞルーシー‼︎ 貴様一体どこで油をうっていた‼︎ しかも魔物も居ないとは、これだからなりそこないは……」


聞き飽きた怒声……。


その言葉に俺はうんざりしながらも無言で首を差し出す。


「ごめん、襲われたからつい魔物を殺してしまった」


「なっ‼︎? この馬鹿野郎‼︎ おびきだせって言っただろうが、人の話聞いてなかったのか?」


襲われたからという説明を聞いてなかったのかと言おうとしたが、その言葉をぐっと飲み込んで俺はさらに謝罪を重ねる。


「本当にごめん。 首だけ持ってきたから」


「まったく……本当に使えない奴だ」


そういうと差し出した首をガルドラは奪い取る。


文句を言いつつもその顔はどこか嬉しそうだ。


「こいつは、タイニードラゴンか。 この程度の魔物に親父も恐れをなすとは。老いて腰抜けになったか、情けない」


ニヤニヤと笑うガルドラに俺はハッとする。


確かに体の部分は溶けてなくなってしまったため、首だけを見ればただの龍の首にしか見えない。


「……あ、その魔物は」


その為俺は、実際に戦った際の形状を伝えようとしたのだが……。


「うるさい! いつまでそんなところにいるんだルーシー! やることが無いんだったら鎧磨きでもしてろ‼︎」


話を聞くどころか新しい仕事を押し付けてくる始末。


もう少し労いの言葉の一つもあっていいと思うのだが……まぁ、文句を言ったところで待遇がかわるわけでもないので、俺は命令通り黙って次の仕事に向かうことにする。


とぼとぼと帰るひとりの帰り道。


ふと頭に、先ほど助けた女性の声が響く。


もし、今よりはるかに高待遇な場所が其方を受け容れるって言われたらどうする?


「そりゃ、行きたいけどさ」


そんなことはありえない。 そう呟いて俺はその場を後にした。



「おい、人モドキ。族長様がお呼びだ、すぐに迎え」


押し付けられた鎧磨きを一人黙々とこなしていると、族長補佐のアクルがそう声をかけてきた。


「すぐにって……俺鎧磨きをしててドロだらけなんだけど」


俺は鎧の山をアクルに見せる。


だがアクルはせせら笑うように鼻をならすと。


「どんな格好だろうと変わらんだろうお前は。いいからさっさと行けのろま」


「むぅ、なんだよもう」


どやされるように俺は立ち上がると、そのまま族長の家へと向かう。


藁で作られた俺の家とは違う、立派なレンガで作られた族長の家。


「ああは言われたけど、流石にこれはまずいよなぁ」


族長は気位が高く、特に俺のような人モドキを毛嫌いしている。


まだ、同じ村で生まれたよしみで情けをかけてもらっているが。気分を害せば藁よりも軽く俺は村を追放されてしまうだろう。


せめて砂ぐらいは落としておこう。


俺はそう思案して、家の前で簡単に体の泥を落とす。


と。


「ん? なんだこれ」


ふと手の甲をみると、なにやらあざのようなものが浮かび上がっている。


さっきのドロドロとの戦いでついたのだろうか? 羽、もしくは尻尾のような模様にも見える。


「変な形……」


俺はそんな感想を漏らし、あざを触ってみるが痛みはない……特段体に別状はないし、ただ単に先ほどの戦いでぶつけただけのようだ。


「てめぇルーシー、何サボってやがる」


そうやってあざを眺めていると、背後から響く聞きなれた声。


振り返ると、案の定、先程倒したドラゴンの首を手に持ったガルドラの姿があった。


「あぁガルドラ、サボってるわけじゃ無いよ。ただ族長に呼ばれて」


「おまえが親父に? はんっ、丁度いい。 親父にこいつの首を見せてやるからお前もこいつを俺が仕留めたって証人になれ」


ニヤリと含み笑いをするガルドラ。


自分の手柄を主張したところで何もいいことはないので。


「わかったよ」


そう頷いて、意気揚々と扉を開けるガルドラの後に続いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る