第3話 ルーシーとセッカ


「うそじゃろ……あれを、あんな錆びた剣一本で?」


女性の言う通り、首を切り落とすと触手やドロドロとした体は力を失ったかのようにぼたぼたと泉に溶け込んで行き、泉からは腐った動物や小鳥たちが浮かび上がってくる。


「よかった、首は溶けないみたいだ」


体とは異なり、魔物の首が形を保ってくれていたのは助かった。


もしこれで首まで溶けてしまったら、ガルドラになんて説明したらいいかわからないところだった。


「魔獣塊をそんなもので倒すとは、お主一体どこのギルドのものだ?」


「ギルド、なんだそれ? 」


首の無事を確認したのち、腰ヒモにくくりつけていると。


襲われていた少女は訝しむような表情で、俺にそんな聞きなれない言葉を投げかけてくる。


ふさふさの耳をはやした少女は年齢にして10代後半程度だろうか?


白と赤色の東洋の衣装はこの辺りの人間ではないことを物語っており、色々とよくわからない少女と聞きなれない言葉に首をかしげる。


「ギルドを知らない? となるとその耳、人狼族の戦士か。 しかし、人狼族といえば武器は使わず己の肉体のみで戦うのが誇りだと聞いたが」


「あぁそうさ。 だけど見ての通り俺は人狼変化をしても爪も牙も生えてこない出来損ない、村では人モドキなんて呼ばれてるよ」


「それだけの腕を持ちながら出来損ないとは謙遜にしか聞こえないの」


「どれだけ強かろうと、武器を使うのは臆病で弱い奴のすることだ。 だから今日もこの魔物をおびき出す囮役をやらされた」


「で、容易くその魔物を屠ったと」


「こいつが弱くて助かった」


「弱い……ねぇ」


「?……あんた、うちの村に用があるのか?」


「ん? まあの……ここを通るのが安全な近道だと教わったのじゃがあの始末よ」


「あいつが出るようになったのは先週からだ。まだ残りがいるかもしれないし、村まで案内するよ」


「良いのか?」


「あぁ、ここからなら西門が近い。 だけどそのかわり条件がある」


「条件? まぁ助けてもらったしそうだろうな……金か?」


「いや、そんなものいらない。どうせ持ってたって族長たちに取られるだけだ」


「では何を?」


「条件っていうのは俺がここにいたことを誰にも言わないで欲しいってこと。本来この森は立ち入り禁止だから……バレたら飯を食えなくなる」


「?異な事を、その脅威を取り除いたのだし、我がその証人になったほうが其方の理になるのではないか?」


「そんな事をしたら村に居られなくなる。この魔物は族長の息子ガルドアが倒したことにしないと……本当は森の外までおびき出してガルドアたちが倒す筈だったんだ。 だけどあんたを助けるために殺してしまった。 あんたが黙ってればまだガルドアが倒したことにできる。そうすれば、手柄を横取りされたってガルドアにいちゃもんをつけられて村を追放されることもない」


出来るだけ簡潔にわかりやすく説明をしたつもりであったが、目の前の女性はさらに怪訝そうな表情をして首をひねる。


「変な話よなぁ〜。 其方が倒したのなら其方が賞賛されるべきであろうに」


「しつこいな、そうすると村を追い出されるんだ。 族長の息子にはその権利がある。理不尽だけど、ここを追放されたらどこに行く当てもない……こんな人モドキ受け入れてくれる集落なんてないんだから」


「そうなのか? なら、今よりはるかに高待遇な場所が其方を受け容れるって言われたらどうする?」


「そりゃ行くに決まってるさ……でもそんな夢物語はみないことにしてる。ほら、お喋りはここまでにして行くぞ。あんまり遅いとガルドラたちに怪しまれる」


「ほっほーう、そうかそうか。 では案内してもらうとするかの……えーと」


「ルーシーだ」


「そうか、ルーシーか。 いい名だの‼︎ 我はセッカじゃ。よろしくな、ルーシー」


なにが楽しいのか、鼻歌を歌うセッカ。


そんな不思議な女性に俺は首を傾げながらも、森を抜けた先にある西門まで女性を送り届けた後、森を通ってガルドラの元まで戻る。


「そういえば……名前褒められたの、初めてだな」


理由は分からなかったが、気がつけば俺も知らずのうちに鼻歌を口ずさんでいた。

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