ナチュラルボーンクラッシャー無双 ~ゴミクズ無能スキル『骨折り損』のせいで疎まれていたFランク冒険者、パーティー追放でスキルが覚醒し最強の武術家に至るようです~

蒼魚二三 >゜ )彡))二ヨ

プロローグ ステラの初恋

 生誕歴1021年。

 史上最強の勇者候補たちが一同に集った奇跡の世代。

 神殿の洗礼神官たちは、口々にそう語っていた。


 そのとき揃った、あまりに煌びやかなメンバーの中で、貴方は特別な存在ではなかった。


「君のスキルは『骨折り損』だね」

「なんですかそれ」

「いわゆる外れスキルというやつだ。残念だったね」

「くそおおおー!」


 がくりとへこたれる黒髪の少年の背を、大勢の人が嘲笑ったのを覚えている。

 彼はその状況が耐えきれなかったのか、目元を抑えながら神殿の外へと駆け出していった。

 それから洗礼を終えて、聖都に向かう馬車へと乗りこむわずかな間に、私たちは村を守る結界の隙間から入り込んだであろうオークに襲われてしまう。


『ブヒハ!』

「ひいい、オークだ!」

「ママァー!」


 勇者候補とされた子供たちが、突然の襲撃に怯えて逃げ去っていく中、私は神官に強い口調で言いつけられる。


「け、『剣帝』のスキルを神よりたまわれし少女ステラ! 私たちのために殿を務めろ!」

「そ、そんな、まだ剣なんて握ったばかりで」

「うううるさい口答えするな! 戦うのだ! 神域ゴッド級のスキルがあればオーク程度勝てるだろう!?」

「でも、でも」

「私に逆らう気か!? 親族もろとも異端として処刑しても良いのだぞ!」

「う、ううう……!」


 私は獲物を見ながら舌なめずりをするオーク相手に、華奢な身体に不似合いなショートソードを構えて対峙する。


 私には拒否権が無かった。

 本当は逃げたかった。でも、逃がせてもらえた他の子供たちと決定的に違うのは、彼らは貴族や豪商の子で、私は農奴の娘だということ。

 ここで神官に逆らえば、両親も友達も、私の村に住むみんなも異端認定とされて、聖騎士団に討伐されてしまうと分かってしまっているからだった。


「……ブフ」

「ひっ」


 当然、オークは私に狙いを定めた。

 剣を構えているからであり、神官が私を捨てて逃げたからだ。

 神官は最初から知っていた。オークは人間のメスを優先的に狙う生き物だと。私の存在は何かと都合が良かったのだ。


「こないで……!」

「ギヒ、ギヒヒ」


 私は慣れない手つきで必死に剣を振り回す。

 当たるわけがない。オークが恐れるわけがない。

 どれだけ優れたスキルがあろうと、基礎すらわからない、腕力もない少女が扱えるほど、剣は軽くない。


 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 どうして神様は、私に素晴らしいスキルなんて授けたの。

 私はただ、普通に過ごしたかっただけなのに。


「ブフン」

「きゃっ」


 オークは私が必死に振り回す剣を掴むと、容易く奪い取って放り投げた。私の顔は絶望に染まった。


「ブフヒハァ!」

「ひ、ひぃ、いやあああああっ!」


 オークの手が眼前に迫る。

 しかし、その手が私に触れることはなかった。


「帰ってきたらなんて有様だ」

「え……」


 気がつけば、私の眼前に先程の黒髪の少年が立っていた。

 そう、彼は彼。

 生まれた時からオンリーワン。


「はぁっ!」


 不遇スキルを貰ったとしても関係ない、とでも言いたげな表情で、じっと構えた拳を抜き放つと、稲妻のような速さでもって、私を襲うオークを吹き飛ばし一撃で絶命させた。


 ぱらぱらと土埃が舞い散るなか、振り向いた不遇の少年は、私ににっこりと笑顔を向けてくれる。


「――大丈夫か。剣帝の女の子。怪我ないか?」

「ありがとう、ございます、あのっ」

「ん?」

「あ、あなたの名前は」

「俺か? 俺はゲイン・ルーザー。よろしくな」


 その輝きの名は、ゲイン・ルーザー。

 私が恋焦がれて止まない男の子の名前で、いつか超えてみせると決めた宿命のライバルだ。

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