第8話 『目指せ!新歓公演!』

ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~


第8話 『目指せ!新人歓迎公演!』

作 えりんぎ♂


【大学の食堂】


 吉田が林翔平とテーブル一緒に昼食を食べている。

※林翔平…吉田の幼馴染で友人。1話参照。


林「おまえ、最近楽しそうだな?」

吉田「え?…そうか?」

林「あぁ、前より全然楽しそうだぜ?演劇サークル上手くいってるみたいだな?」

吉田「まぁ、いまんところは…そこそこいい感じじゃない?」

林「そっか、そりゃあよかったぜ!でもまさか、おまえが本当に演劇サークルに入るとはな~」

吉田「おまえが勧めたんだろ」

林「いや~、だって今まで誘ったり勧めたりしてもやってこなかったじゃんね?」

吉田「それはまあ、確かに」

林「ふっ、変わったな、康太」

吉田「っ!…ま、まあな、少しは変われかな」


 林は、吉田を暖かい目で見つめる。


吉田「…なんだよその目は」

林「いや~、おまえの成長が、なんか感慨深くってさ…」

吉田「おまえは俺の保護者かよ」

林「ふふっ…で?公演とか、いつやるんだ?」

吉田「え?」

林「演劇サークルだし、公演とかやるんだろ?」

吉田「公…演?」

林「俺、絶対行くから!決まったら教えろよ!」

吉田「…あぁ、うん」


【大学構内】


吉田「(公演…そうだよな、演劇サークルだから当然舞台公演とかするもんな…つまり人前で演技するって事?…俺、人前で演技なんてできんのか?考えただけで無理なんだが?)」


 大学の構内を吉田は演劇サークルの部室に向って歩いている。


吉田「(いや、落ち着け、すぐにやるって訳じゃないだろし、俺だって最近着実に変わってきている。つまり、公演をやる頃には、しっかりこなせる俺に成長してるはずだ…よし!その為にも日々の練習を大事にやっていくぞ!)」


 吉田はそう決意すると部室のドアを開けた。


【演劇サークルの部室】


吉田「おはようございます!」


 部室にはまだいつものメンバーは来ていなかった、だが、その代わりに部室にある机には見覚えのない人物が座っていた。


吉田「(誰?)」


 その人物は金髪の耳掛けショートヘアで、前髪はそこそこ長く右目が隠れている。左耳には複数個のピアスが付いている事が確認できる。


吉田「(金髪にピアス…)」


 その人物は、吉田に気づいていないようでノートPCで何かしらの作業に没頭している。


吉田「(怖いけど、多分サークルの関係者だよな?)あ、あの~、こんにちは~」

金髪ピアスの人「!」


 声を掛けられて、金髪ピアスの人はビクッとして吉田を見る。


金髪ピアスの人「…えっと、もしかして…吉田くん?」

吉田「あ、はい、そうですけど」

金髪ピアスの人「あー、ごめん、今ちょっと手が離せないからまた後で」

吉田「え?」


 そう言うと金髪ピアスの人はまた作業を再開する。


吉田「(えぇ…)」

?「こんにちは~」

吉田「!」


 今度は吉田の後ろから声がした。振り返るとそこには、身長170cm以上ありそうな、茶髪のセミロングで縁の赤い眼鏡を掛けている女性が立っていた。


吉田「…こ、こんにちは?(また知らない人だ)」

眼鏡の女性「お?おぉ!?おおおおお!!」

吉田「え?え?」

眼鏡の女性「あなたが吉田くんですね!?」

吉田「…え、あ、はい、そうですけど…」

眼鏡の女性「おぉ!やっぱりそうですか~!」


 眼鏡の女性は吉田の全身をくまなく観察する。


眼鏡の女性「なるほどなるほど~、ふんふん」

 

 眼鏡の女性はメモを取り出し何かを書き始める。


吉田「(なんだこの人?)」

眼鏡の女性「吉田くん、誕生日はいつですか?」

吉田「え?…4月2日です」

眼鏡の女性「なるほど、血液型は?」

吉田「Aです」

眼鏡の女性「好きな食べ物は?」

吉田「…あ、甘い物?」

眼鏡の女性「嫌いな食べ物は?」

吉田「苦い物とか辛い物とか」

眼鏡の女性「お酒とたばこは?」

吉田「しないです」

眼鏡の女性「身長は?」

吉田「……えっと、その…170くらい…です」

眼鏡の女性「え?」


 眼鏡の女性は吉田をジッと見る。


眼鏡の女性「…なるほど、160後半っと」

吉田「(見抜かれた…!)」

眼鏡の女性「好きな女性のタイプは?」

吉田「え!?タイプ!?…え、えっと…えっと…」

?「おはようございまーす!」

吉田「!」


 部室にまた別の声が響く。


?「あー!永田さん!久しぶり!いつぶりけ!?あら?そちらは初めましてですね!?」


 今度はピンクの髪色に青、黄色、緑のグラデーションやメッシュの入ったボブヘアで丸いサングラスをした派手な女性が部室に入ってきた。


吉田「は、はじめまして(なんか凄い人が来た…)」

眼鏡の女性「おぉ!水戸瀬さん!久しぶりですね!こちら!吉田くんです!」

派手な女性「あぁ!君があの吉田くん!?あら~、よかにせやね!」

吉田「よか…はい?」

眼鏡の女性「『よかにせ』とは確か、鹿児島弁でイケメンという意味でしたかな?」

派手な女性「当たり!」

吉田「イケメン!?」

眼鏡の女性「田舎のおじいちゃんおばあちゃんが社交辞令で使う事が多いらしいですよ」

吉田「なんだ社交辞令か」

派手な女性「社交辞令じゃなかよ!ほら!」

吉田「あっちょッ…!」


 派手な女性は吉田の顔を抑え眼鏡の女性に見せる。


派手な女性「睫毛が割と長か!!」

眼鏡の女性「ほぉ、どれどれ」


 2人の女性は吉田の顔を覗き込む。


吉田「(な、ナニこの状況…!?)」


 2人の女性に翻弄される吉田を尻目に金髪ピアスの人は机で作業を続けていた。

 

≪数分後≫


 部室にはいつものサークルメンバーも集結しワイワイしている。


井上「こちらが永田雅美(ながたまさみ)さん、ウチのサークルの最後の部員だよ」

 

 井上は眼鏡の女性を吉田に紹介する。


永田「初めまして、永田雅美(ながたまさみ)です。教育学部美術コース2年です。よろしくお願いします」


 永田は吉田と握手する。


吉田「ど、どうも」

福島「これで現サークルメンバー全員がやっと揃ったわけやな!」

川村「あぁ、そういえばそうだな」

間島「めでたいですね!」


 パチパチパチ!

 みんなが拍手する。


吉田「あれ?永田さんが最後のサークル部員?って事はそちらの2人は?」


 吉田は、派手な女性と金髪ピアスの人の方を見る。


井上「あぁ、2人は助っ人だよ」

吉田「助っ人?」

井上「そう助っ人。まずこちらは映像研究サークル部員の黒岩大河(くろいわたいが)くん」


 井上はそう言って金髪ピアスの人を紹介する。


吉田「(大河『くん』!?…嘘、男の人だったの!?)」


 どうやら吉田は、黒岩の事を女性だと勘違いしていたようだ。というのも黒岩は小柄で体型が隠れるような緩いパーカーを着ており、さらに中世的な顔立ちに声もギリギリ判別のつかない絶妙な音なので無理もない事だった。


黒岩「…よろしく」

吉田「よ、よろしくお願いします」

井上「映像研究サークルとはお互いに手助けし合っている関係だから今後も顔を合わせることが多いと思う。黒岩くんはよく照明や音響を手伝ってくれる人だね」

吉田「なるほど」

福島「今日は高津(たかつ)くん来られへんかったん?」

黒岩「あいつは別の用事」

福島「なんや残念やな」

吉田「?」

福島「映像研究サークルでもう1人ウチらの事よく手伝ってくれる子がおんねん。その子は黒岩くんと仲良しで基本セットで動いとるんや」

吉田「へぇ」

黒岩「別に仲良くないし」

福島「なんや?照れとるんか?」

黒岩「ウザ」

井上「今回は役者が足りてないから、その高津くんには役者として参加して貰う事になってるんだ。そのうち会う事になると思うからそのとき紹介するね」

吉田「あ、はい」

井上「そして、最後にこちらが水戸瀬詩(みとせうた)さん。水戸瀬(みとせ)さんは演劇サークル部員ではないけど、たまにサークルのお手伝いをしてくれるんだ」


 井上は派手な女性を紹介する。


吉田「なるほど」

水戸瀬「よろしく!」


 水戸瀬は吉田と握手する。


吉田「よろしくお願いします(なんか、この人の声どっかで…)…いや、そうじゃなくって、なんで今日は助っ人さんとかが来てるんですか?何かあるんですか?」

井上「ん?それはもちろん公演の為だよ」

吉田「…え?こう…えん?」

福島「せやで!今日は来月末の新歓公演に向けてのミーティングをするから全員集合ちゅう訳や!」

吉田「…来月?…シンカンコウエン?」

井上「それじゃあ、みんな早速始めようか」

 

 吉田以外のメンバーは机に集まる。


吉田「(来月新歓公演んんん!?)」


【演劇サークルの部室】


井上「というわけで、新人歓迎公演に向けてミーティングをするよ」

福島「司会進行はウチとヒロがやってくで!」


 部室内にあるホワイトボートの前に井上と福島が立つ。ホワイトボードには『目指せ!新人歓迎公演!』と書いてある。そのホワイトボードが見えるように長机が2つ配置してあり、ホワイトボードに近い長机に間島、川村、吉田。遠い長机に水戸瀬、永田、黒岩というように座っている。


吉田「(新人歓迎公演…いや、落ち着け、流石に俺が出る訳じゃないだろ?…ないよな?)」

井上「それでは早速、お手元の永田さんが書いてくれた台本をご覧ください」


 それぞれの机の上に台本が置いてある。


吉田「いつの間に…!!って、永田さんが書いたんですか?」

福島「せやで、ウチらが使う台本は大体まさみんが書いとるんや!」

吉田「へぇ凄いですね」

永田「いや~凄いと言えるほどの物では~、本業でもありませんし、暇な合間に作っているだけなのでクオリティも保証できるものでもないですからね~」

水戸瀬「そげんことなかよ!話作るのわっぜ上手かもん!やっぱい、漫画家さんは違かね!」

吉田「え?漫画家?」

間島「そう!永田さんは漫画を執筆しているんだ!えっと、確かス、ス、『スッリプ』?とかいう雑誌を出してる会社でしたっけ?」

川村「『ステップ』の『多英社』な」

福島「『スリップ』って滑っとるがな」

吉田「『ステップ』って『週刊少年スッテプ』のですか!?」

永田「いや~、まあ~、描いていると言えば、描いているんですけど~、と言っても、まだ連載とかではなく読み切りとか数回出してるだけのペーペーなんですけどもね…」

吉田「凄いですよ!だって俺普通に『ステップ』見てますし!そこで描いてるなんて」

黒岩「…」


 黒岩が後ろから吉田の肩をツンツンする。


吉田「?」

黒岩「これ」

 

 吉田が黒岩の方を見ると黒岩は自分のノートPCを吉田に見せた。


吉田「なんですか?」


 黒岩のPCには漫画の読み切りが載っている。


川村「お、まさみの読み切りじゃん」


 どうやら、ネットで無料公開されているらしい。


永田「あぁぁぁ!!」


 永田は黒岩のPCの画面を手で覆いブロックする。


永田「ま!待ってください!」

福島「なんやねん?別にええやろ?吉田くん以外は全員見とるんやし」

永田「いやいやいや!流石に目の前で自分の作品を読まれるのは恥ずかしすぎます!」

川村「なんだよ?恥ずかしがることねぇだろ?面白かったし」

水戸瀬「だからよ!私、感動したもん!」

間島「そうですよ!素晴かったですよ!」

永田「いや!無理です!またの機会にして下さい!せめて私がいないときに!…って!そうじゃなくて!今日は来月の新歓公演に向けてのミーティングなんですから!私の話はどうでもいいでしょ!ですよね!?井上さん!」

井上「え?…あぁ、うん、そうだね…ほらみんな、話を戻すよ」

みんな「はーい」


 全員、おとなしく座りなおす。


井上「それじゃあ、まずは今回の台本について永田さん説明をお願いできるかな?」 

永田「はい…ではみなさん、お手元の台本をご確認ください」


 各々、台本を手に取り目を通す。台本のタイトルは『ようこそ演劇サークルへ』。


永田「え~、というわけで今回は新人歓迎公演ということで、演劇サークルがどういうものか知って貰うという目的も含め演劇サークル自体を題材にした内容にしています」

吉田「(なるほど、目的に合った題材…そういう事も考えてるんだ…)」

永田「配役も一応あらかじめ考えてみました。2ページ目に書いています。ただこれはあくまでこちらで勝手にイメージしたものなので参考程度に考えて頂けると幸いです」


 台本の2ページ目を見ると役の名前が書いてあり、既にそれぞれの役にキャストの名前があててあった。その中に…


田中実…吉田康太


吉田「…あの~、俺の名前書いてるんですけど…?」

福島「ふっふっふ、せやで!来月の新歓公演!吉田くんにも出て貰うからな!」

吉田「え?」

井上「吉田くんも慣れてきてるみたいだし、そろそろ実際に公演に出てみるのもいいじゃないかと思ってね」

吉田「えぇ!?」

間島「そうですよね!やはり!演劇は公演してこそですからね!」

川村「芝居は見せなきゃ意味ねえもんな」

吉田「ちょ、ちょっと!待って下さい!そんな急に無理ですよ!まだその時じゃないっていうか…周りに迷惑を掛けるかもしれないし…」

井上「大丈夫、そんな吉田くんの為に今回は『アンダースタディ』を用意してるから」

吉田「アン…?え?」

間島「説明しよう!『アンダースタディ』とは!…えっと…」

永田「『アンダースタディ』、役者さんに何かあったときに備えて予めその代役を務められるように他の役者さんに準備してもらう事…でしたっけ?」

井上「正解」

間島「負けた…!!」

吉田「えっと?つまり?」

井上「今回の公演は吉田くんの『アンダースタディ』…つまり、控えの代役として僕が入る。そうする事によって、本番に挑むときに吉田くんが出れると思ったら出て、逆に吉田くんが無理だと思うときは、代わりに僕が出るということができる。これなら、吉田くんも気負わずに参加できると思ってね」

吉田「…無理なときって、もし俺が本番当日に病気とか怪我とかでこれなくなったりしても大丈夫って事ですか?」

井上「うん、そうだよ」

吉田「俺が本番直前で怖くなってダメになっちゃたときも?」

井上「うん、大丈夫。そう!『アンダースタディ』ならね!」

吉田「…『アンダースタディ』…なんて、安心感…!でも、いいんですか?俺だけそんな…」

井上「いいんだよ。今回は吉田くんにとって初めての公演だからね。無理にやって公演が嫌いになったりするより、おためしの公演って事で気軽に参加して貰って今後に活かしてもらいたいんだ」

吉田「…そんなに俺の事を…俺!やってみます!」

井上「うん、よろしくね」

間島「吉田くん!僕もしっかりサポートするからね!」

川村「あたしもな!」

永田「台本、やりにくいところがあったら遠慮なく言ってください!直しますので!」

水戸瀬「私もなんか手伝う!」

福島「よっしゃ!それじゃ、新歓公演に向けて気合入れてくで!」

みんな「おー!」

黒岩「…なにこのノリ」


 その後、ミーティングは和気藹々と進行した。


■登場人物


永田雅美(ながたまさみ)…大学2年生。身長は170後半。茶髪のセミロングに赤い縁の眼鏡が特徴。面白い事や興味深い事が起きるとすぐに手持ちのネタ帳に書き込む。


水戸瀬詩(みとせうた)…大学2年生。身長は160ないくらい。ピンクのボブヘアに青、緑、黄、のグラデーションやメッシュの入った髪に丸いサングラスをよく掛けている。基本は鹿児島訛りだが、標準語も普通に喋れるらしい。


黒岩大河(くろいわたいが)…大学3年生。身長は150後半。耳掛けショートの金髪で右目が前髪で隠れている。大学の他サークルからの依頼やバイトで動画制作をしている。


吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。


川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。


間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。


福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。


井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。

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