第9話 『君で当て書き!』
ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~
第9話 『君で当て書き!』
作 えりんぎ♂
【サークルの部室】
新人歓迎公演に向けてのミーティングが無事終わり、本日は解散となった。各々が帰り支度を整えている。
川村「吉田」
吉田「ん?はい」
川村「悪い、今日はこいつに付き合うから一緒に帰れないわ」
川村は水戸瀬を指してそう言った。
吉田「あ、そうですか…わかりました」
水戸瀬「吉田くんも一緒にいく~?」
吉田「え?」
川村「いいのか?」
水戸瀬「よかよか!吉田くん、どげんね?」
吉田「いいんで…(いや、待て…!冷静に考えて女性2人に男1人って凄く気まずくないか!?いやそれ以前に、ただでさえ3人というのはバランスよく会話するのが難しいとされる人数!!…無理だ。俺には間違いなく荷が重い…!)あ…、いや、すいません、お誘いは嬉しいですけど…ちょっと…今回は遠慮します」
水戸瀬「えぇ~!来ればよかのに~!」
吉田「いや…」
水戸瀬「ねぇ~、いこがぁ~」
水戸瀬が吉田の腕を引っ張る。
吉田「ちょおっ…!」
対して吉田は仰け反って水戸瀬から離れようとしている。
川村「おい、無理に誘うなよ、また次の機会でいいだろ?」
水戸瀬「ちぇっ、仲良くなれると思ったんだけどな~」
水戸瀬は吉田から離れる。
吉田「す、すいません」
川村「謝る必要ねぇよ。じゃあ、また明日な吉田」
吉田「あ、はい、また明日」
水戸瀬「じゃあ、吉田くん、またいつかね!」
吉田「あ、はい」
川村と水戸瀬は部室を後にした。
吉田「(…俺も帰ろう)」
永田「よ・し・だ・くん!」
吉田は後ろから永田に肩を掴まれた。
吉田「うわ!?…な、永田さん?」
永田「この後、お暇ですか?」
吉田「え?いや…今、川村さん達のお誘いを断ったところなんですけど…」
永田「えぇ観てましたよ!ですが、差し詰め忙しいから断ったのではなく女性2人に対して男性1人なおかつ3人という微妙な人数だと気まずくなりそうだと判断して断ったんですよね?」
吉田「ッ!?(心が読めるのか!?)」
永田「お、図星っぽいですね!?」
吉田「…そう…ですけど」
永田「よかった~!では、吉田くん!私、あなたに色々とお伺いしたい事がございますので、この後一緒にお食事にでも付き合って頂けないでしょうか?」
吉田「えぇ…それは…」
永田「お食事代は私が持ちますので!何卒!!」
永田は吉田に拝むように手を合せる。
吉田「……」
【喫茶店】
席に吉田と永田が対面で座っている。
永田「なるほどなるほど~、今の自分から変わりたいから演劇サークルに入ったですか…」
永田は吉田から話を聞きメモを書いている。
吉田「(うーん、川村さん達の誘いは断ったのに永田さんの誘いを断らないのは、なんだか悪い事してる気がしてモヤモヤする)」
永田「ふむふむ、だいぶ吉田くんの解像度が上がって来ました~重畳~重畳~」
永田はメモ書きを見返して満足しているようだ。
吉田「…あの~、俺の話なんか聞いてどうするんですか?」
永田「あぁ、それは漫画のキャラクターのモデルにさせて頂こうと思いまして」
吉田「モデル?俺なんかがモデルになるんですか?」
永田「もちろん!吉田くんはとても素晴らしいモデルですよ!」
吉田「す、素晴らしい…?そんな事ないと思いますけど…」
永田「いやいやいや!いいですか吉田くん!現実の人間はどんな人間も誰1人して同じ人間は存在していませんよね?」
吉田「え?まあ、そうですね」
永田「そうなんです!この世界には何十億という数のキャラクターがいるのに被りがないんです!しかも!中には私の想像だけでは創り出せないような、愉快、不愉快、常人、奇人、何でもござれ!そしてさらにそのキャラクター達には、わざわざ考える必要もなく!人種!宗教!教育!キャラクターを構成している過去があり!生い立ちがあり!バックボーンがあるというおまけ付き!まさに現実世界はキャラクターの宝物庫というわけです!」
吉田「宝物庫…」
永田「そして、吉田くんもその宝物庫の宝石の1つというわけです!」
吉田「俺が宝石…!?」
永田「そうですよ!だからこそ、吉田くんは素晴らしいモデルであり、こうして話を聞くことは私にとってとても有意義な時間というわけです…感謝!」
永田は手を合わせ深々と頭を下げる。
吉田「…えっと、どういたしまして?ていうか、そんな風に言われるとなんか照れますね」
永田「お!」
吉田「え?」
永田は鞄から取り出したスケッチブックに絵を描き始める。
吉田「何を?」
永田「あぁ、吉田くんの表情が良かったものでスケッチを…」
吉田「俺の表情?」
永田「あ、すいません、嫌でした?」
吉田「いや、構わないですけど…」
永田「ありがとうございます!」
吉田「…えっと、動かない方が良かったりしますか?」
永田「あ~、大丈夫です!勝手に描いてるだけなので!お気遣い感謝です!」
吉田「そうですか…」
永田はスケッチを続ける。少しの間沈黙が続く。
吉田「(気まずい…)」
永田「…そうだ、吉田くん。話は変わりますけど、台本どうでしたか?」
吉田「え?どうって?」
永田「新歓公演の台本、吉田くんの役は『当て書き』で書いてはいるのですが、なにぶん忙しく、直接会えずに人伝いで印象等を聞いて書いたのもなので実際にちゃんと吉田くんに合ってるかどうか聴きたいと思ってまして」
永田はスケッチをしながら話を続ける。
吉田「『当て書き』ってなんですか?」
永田「あ~、普通は台本があってその台本の中の役に役者さんが合わせるようにお芝居をする事が多いと思いますけど…『当て書き』はその逆で、役者に合わせて役を書くことですかね」
吉田「…えっと?」
永田「要はモデルです。役者さん本人をモデルにした登場人物を台本に登場させて、そのモデルとなった役者さんにその役をやって貰うという事を『当て書き』といいます!…おや?なんだか説明が分かりにくいような…」
吉田「いや、なんとかなくわかったかもです。つまり、今回の台本の俺の役は俺をモデルに書いた役って事ですか?」
永田「おぉ!そう!そうですね!そういう事です!いや~、人に何かを分かってもらうように説明するって難しいものですね~、描くときも苦労するところです」
吉田「でも、なんでわざわざ、俺の『当て書き』を?」
永田「それは、井上さんから『吉田くんにとっては初めての公演になるから、なるべく吉田くんがやりやすよう役にして欲しいんだけどお願いできるかな?』との要望を頂いたので、なら『当て書き』にしようと思ったわけですね」
吉田「なるほど」
永田「で?どうでした?個人的には吉田くんと実際に会って話を聞く限り、解釈にそれほど乖離は無かったように思いますけども」
吉田「あぁ、いや…まだちゃんと読めてなくって…」
永田「…確かに!渡したのは今日の今日でしたね…すいません~、今軽く目を通して確認していただいてもよろしいでしょうか?」
吉田「はあ、わかりました」
吉田は台本を取り出し目を通す。
台本のタイトルは『ようこそ演劇サークルへ』。
内容は部員が少なすぎる事で部室がなくなりそうな演劇サークルを立て直す為にサークル部員が奮闘する物語だった。
吉田の役は演劇に興味があるが過去のトラウマにより、人前に立つのが怖くなってしまった大学生。
物語上では、部員を集めるために奮闘している演劇サークルの部員を見て、興味からサークルを覗きに行く。するとサークル部員に見つかり半ば強引に演劇サークルに加入する事になる。
吉田「(…この役…性格とか以前に、状況が似てないか?いや、俺にトラウマとかないけど…)」
吉田は最後のページまで目を通した。
吉田「……」
永田「どうでしたか?」
吉田「え?あぁえっと…多分、役は俺に近いと思うし、やりやすいのかなって気がします…それに、役の状況も俺に重なる部分が多くて、そこもビックリしました」
永田「おぉ!そう思って頂けましたか!実は状況もできるだけ等身大にできるように井上さんから聞いてた話を元に展開も考えてみました!」
吉田「なるほど、それで…」
永田「まあ、あとは実際にやってみてここがやりにくとか、この台詞は言いにくいとあったら遠慮なくいって下さい!すぐに修正しますので!」
吉田「わ、わかりました…なんかすいません、俺の為にいろいろ…」
永田「ふふっ気にしないでくださ。これは、新歓公演成功の為、ひいては私の創作の為でもあります…なので、私の事は気にせず、吉田くんは伸び伸びと新歓公演に向けて頑張ってくださいね」
永田はニコっと微笑む。
吉田「は、はい!頑張ります!」
【吉田のマンション】
吉田は湯舟に浸かている。
吉田「…公演か(なんだか出る流れになっちゃったけど、俺にできるのか?…いや、演劇サークルに入って俺もいろいろ変われてるはず…それにサークルの人達も俺を支える為に色々考えてくれてる…みんなの気持ちに答えたい…)」
吉田「…よし!」
吉田は湯舟から上がった。
【吉田の部屋】
吉田はドライヤーで髪を乾かしている。
吉田「(…そういえば永田さんって漫画家さんなんだよな?読み切りを描いてるとか…どんな漫画なんだろう?)」
吉田は髪を乾かしながらスマホで検索する。
吉田「ダメだ…絞り込めない」
川村『お、まさみの読み切りじゃん』
ふと、川村が永田の読み切りに反応していたのを思い出す。
吉田「……」
吉田はメッセージアプリの個チャで川村にメッセージを送ろうとする。
吉田「…待て」
が送信する前に指が止まった。
吉田「(これは永田さんに直接聞くべきなのでは?…いやでもまだ、友達追加はしてないんだよな…グループチャットから一方的に追加して個チャを送るのはなんかアレだし…)」
吉田は再び川村にメッセージを送ろうとする。
吉田「(いや待て!…かと言って川村さんに聞くのはどうなんだ?)」
吉田は再び指が止まる。
吉田「(確かに、永田さんよりは川村さんの方が一緒に帰ったり、ごはん食べたり、遊んだりしたりしいる分仲はいい筈だけど…個チャでのやりとりは飲み会の日の友達追加したときの挨拶程度、それなのに急に『永田さんの読み切りのタイトル知っていたら教えてくれませんか?』とか送るのはアレじゃないだろうか?)」
川村『いいもんだな。こういう風に友達とガチでやるのは』
吉田「(友達!?…そうだ!友達だ!友達ならこういう軽いやりとりするよな!?…たしかに、林とは割とこういう軽いやりとりしてるし…いやでも、女性の友達は初めてだし勝手が違う可能性が…)」
吉田は数秒考えて
吉田「よし、ここは安牌をとって送らないでおこう」
そう結論付けメッセージを消そうとしたとき
吉田「へっ…へっ、へっ、へくちッ!」
くしゃみが出た。
吉田「…あ」
どうやらくしゃみの勢いでメッセージを送信してしまったらしい。
吉田「ヤバ!消さないと!」
そう思った吉田だが遅かった、既にチャットには既読が付いていた。
吉田「はやい!…(…いや、こうなったらどうしようもない…覚悟を決めろ、俺…)」
覚悟を決め吉田がスマホの前で座して待つ。数十秒程経っただろうか…
ポコン♪
吉田「…!!」
川村『『マサムネ』『ステップ』『読み切り』で検索すれば出る』
吉田「おぉ…良かった~普通に返してくれた…(しかし、文章から感情が全く読み取れない…怒ってたりしないよな?大丈夫だよな?)」
シュポッ♪
吉田『ありがとうございます!』
吉田「とりあえずお礼を…」
ポコン♪
川村から謎のゆるキャラの『いいってことよ!』スタンプが送られてきた。
吉田「スタンプ!!…よかった~大丈夫だったみたい…」
感情とスタンプには特に相関性は無いという事を吉田は知らなかった。
シュポッ♪
吉田は謎のキャラの土下座のスタンプを送った。
吉田「よし!」
吉田は川村から得た情報を使い早速、PCで検索する。
吉田「あった…『the・ヒーロー魂』これだよな?」
情報を頼りに永田の読み切りらしきものを探し当てた。
内容は昔ヒーローに救われた事から自分もヒーローになるために奮闘する男の話だった。王道の中の王道展開ではあるが、主人公は身体を鍛える事で不可能を可能にするという特別なパワーではなく純粋なパワーと努力で解決するパワー系主人公という点がオリジナリティになるのだろか。
吉田「(凄い本当に漫画だ!いや、漫画家さんなんだから当たり前か…それにしてもこの主人公どこかで…)」
『くっ!僕はまだ足りてなかった!腕立て1000回追加だ!』
『どうだい!?君も一緒に鍛えないか!?』
『僕は人に勇気と希望を与えるようなそんなヒーローみたいな役者を目指しているんだ!』
吉田「(…あ、これ間島さんだ)」
既視感が解決して少しスッキリした吉田だった。
■登場人物
永田雅美(ながたまさみ)…大学2年生。身長は170後半。茶髪のセミロングに赤い縁の眼鏡が特徴。面白い事や興味深い事が起きるとすぐに手持ちのネタ帳に書き込む。
水戸瀬詩(みとせうた)…大学2年生。身長は160ないくらい。ピンクのボブヘアに青、緑、黄、のグラデーションやメッシュの入った髪に丸いサングラスをよく掛けている。基本は鹿児島訛りだが、標準語も普通に喋れるらしい。
吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。
川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。
間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。
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