第7話 『声を出そう!』
ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~
第7話 『声を出そう!』
作 えりんぎ♂
【演劇サークルの部室】
いつものサークルメンバーが発声練習をしている。
間島「吉田くん!だいぶ声が出るようになってきたね!」
吉田「本当ですか?でも、みんなに比べるとやっぱり全然声が出てないような、なんかコツみたいなのあるんですかね?」
間島「コツ!?そうだね!やっぱり『腹式呼吸』かな!」
吉田「『腹式呼吸』?」
間島「そう!お腹から声を出す呼吸法さ!」
吉田「お腹から声!?」
福島「せやで!腹話術ってあるやろ?あれも実はお腹から声出しとるから口を動かさんとも、声が聞こえるんやで!」
吉田「そうなんですか!?」
川村「嘘教えんなよ」
間島「え!?嘘なのかい!?」
川村「おい」
井上「『腹式呼吸』は、呼吸するときにお腹の中にある横隔膜を意識して上下させて肺を動かしやすくする呼吸法だね。これをすることで、より多くの筋肉で呼吸を支えられて安定した音が出せ、普通に呼吸するよりも多く空気を取り入れることができるんだ」
吉田「…なるほど!」
福島「ほんまにわかっとるんかいな?」
吉田「いや、まあ、なんとなく雰囲気は…で、それってどうやったらできるようになるんですか?」
井上「…ごめん」
吉田「え?」
福島「あ~、ヒロは知識はあるんやけど実践が出来へんねん」
間島「ならば!ここは!この間島真にお任せ下さい!高校時代!演劇部で『腹式呼吸』の練習は毎日やりましたからね!」
吉田「おお!」
間島「吉田くん!こっちへ!」
間島は吉田を誘導する。
川村「あいつ教えられんのか?」
福島「まあ高校演劇言うたら、大声出すんが基本やらかいけるんちゃう?」
川村「そうなのか?」
井上「補足すると、高校演劇で声を出すのは大会で使用する会場が広くて、しっかり声を出さないと観客に聞こえないからだね」
川村「へぇ~」
間島「よし!吉田くん仰向けで横になるんだ!」
吉田「はい」
吉田は仰向けで横になる。間島もその横で同じく横になる。
間島「上体を腹筋をするように少し上げてそこでキープするんだ!」
吉田「は、はい」
間島は上体を上げる。それに合わせて吉田も上体を上げる。
吉田「あ、上げました!」
間島「よし!このまま発声だ!」
吉田「え!?このまま!?」
間島「あー!えー!いー!うー!えー!おー!あー!おー!」
吉田「ぁ~ぇ~ぃ~ぅ~ぇ~ぉ~ぁ~ぉ~」
間島「吉田くん!?声が出てないぞ!」
吉田「いや…、この状態で声出すの…無理…!うへぇ」
吉田は力尽きた。
間島「吉田くん!?」
川村「おいおい、あってんのかよそれ?」
みかねた川村が歩み寄る。
間島「こうする事でお腹に意識を集中させる事が出来るみたいな感じだったはずなんだが」
川村「曖昧だな~、つ~かそれだと余計な力が入って逆に声出しにくくなるんじゃねーのか?」
間島「…確かに!…だが、こういう練習をしていたはずなのだが…」
川村「ようは、横隔膜動かせばいいんだろ?吉田、立ってみろ」
吉田「あ、はい」
吉田立つ。
川村「横隔膜ってのは、この辺にあんだろ?」
川村は吉田の肋骨の下あたりに手を当てる。
吉田「ッ!」
吉田はビクッ!っとする。
川村「どうした?」
吉田「いや!大丈夫です!…続けてください!」
川村「…おう…え~と、とりあえずこの辺にある横隔膜を意識して、息を吸うときに下げる、吐くときに上げるように呼吸してみ」
吉田「横隔膜を意識…わかりました」
川村「吸って~」
吉田は息を吸う。
川村「吐いて~」
吉田は息を吐く。
川村「…うん」
吉田「どうですか?」
川村「これ、できてんのか?」
福島「わからんのかーい!」
川村「あたしも『腹式呼吸』についてしらねぇし」
福島「なら!なんやったんや!今のくだり!…はあ、しゃーない!ウチが教えたる!」
吉田「知ってるんですか?」
福島「いや、ようわからんわ」
吉田「えぇ」
福島「まあ!こういうので大事なのはイメージや!お腹から声を出すイメージをしっかり持ってやってやれば!できるようになってるんや!」
井上「1番曖昧だね」
吉田「お腹から出す?イメージ?…んん!ぬぬぬ!ぐぐぐ!」
吉田はお腹から声を出すイメージをする。
福島「おぉ!ええで!その調子で自分のお腹と対話するんや!」
吉田「うぅ…!!ぐぬぬぬ…!!」
川村「大丈夫かこれ?」
間島「無理はするな!吉田くん!」
吉田「ふぬぬぬぬぬ!…あ…」
福島「お!来たか!?」
吉田「…あの…トイレ行っていいですか?」
【大学構内のトイレ】
吉田「すぅ~はぁ~…?」
吉田はお腹に手を当て呼吸をしている。
吉田「(う~ん、お腹から声を出す…どういうことなんだろう?全然わからない…結局別のが出ちゃったし…)」
?「もしかして発声の事で悩んでいるのかな?少年?」
吉田「え?」
声がした方を見るとトイレの入り口にサングラスを掛けた長身の男が腕を組んで壁に寄りかかっていた。
吉田「(誰!?この人!?うちの学生?…落ち着け、吉田…これはどう考えても関わってはいけないタイプ…ここは穏便に見て見ぬふりをしよう)」
吉田は謎の男と目を合わせず横を通り過ぎようとする。
謎の男「待った!」
謎の男は吉田の腕を掴んだ。
吉田「ひっ!?」
謎の男「君は演劇サークルの子だね!?」
吉田「な、なんですか!?あなた!?だ、だれかー!」
謎の男「ッ!!落ち着け!」
謎の男は吉田の口を塞ぐ。
吉田「もがッ!」
謎の男「私は怪しいものではない…!」
吉田「んー!んー!!」
謎の男「ほら!名刺だ…!」
謎の男は吉田に名刺を渡した。
吉田「ゲホッゲホッ、め、名刺?」
受けっとった名刺には俳優、友田優紀(ともだゆうき)と書かれていた。
【演劇サークルの部室】
井上「お久しぶりです。友田さん、今日はどうしたんですか?」
友田「あぁ、たまたま近くに来てさ、ちょっと覗いてみようかなと思ってね」
井上と友田が話しているのを横目に、吉田達は友田が買って来た差し入れを食べている。
吉田「(…この人、どっかでみたような気がする)」
間島「友田優紀(ともだゆうき)さん!うちのサークルのOBの方で、役者として活躍中のプロの方だ!」
吉田「そうなんですか?」
福島「まあ、興味ないとしらんよな」
川村「まれに、こうやってうちに来るな」
吉田「なるほど」
吉田は改めて受けっとた名刺を見る。
吉田「俳優さんとかも名刺渡すんだ…(名刺…社会人になった後、サラリーマンが初めて会う人ととりあえず交換する物といったふわっとしたイメージしかないが、なんだか実際に貰うととても大人なアイテムに見える)」
友田「役者にとって名前を憶えてもらうのは大事なことさ!」
友田はいつの間にか吉田の隣にいる。
吉田「うわ!」
友田「1つ!名前を覚えてもらわなくてはそもそも、仕事に呼んでもらえない!」
吉田「…なるほど」
友田「2つ!仕事に呼んでもらったとしても、名前を忘れられたら次の仕事に呼ばれない!」
吉田「な、なるほど」
友田「3つ!…3つ…うん!ともかく、名刺を渡しておくと相手の手元に名前と連絡先を残す事ができて、そうすることにより今の2つの問題を解決できるわけさ。そして名刺というのは定期的に整理とかするために見返すものだろ?そういったときに『あ~、こいつあの時の、そういえば今ちょうどいい話があるな連絡してみるか』なんて新しい仕事につながることがあるかもしれない!だから、役者にとっても名刺は大事なんだ少年!」
吉田「なるほど!」
間島「友田さん!僕も名刺を作ってみました!」
間島は友田に名刺を渡す。
友田「いいね!君は実に素直だ!」
福島「ウチも!作ったで!」
友田「いいね!君も実に素直だ!」
川村「あたしはめんどいから作ってないです」
友田「いいね!君は自分に素直だ!ところで少年名前は?」
吉田「あ、吉田康太です」
友田「吉田康太…いいね!私は友田優紀だ!改めてよろしく!吉田くん!」
吉田「こちらこそ、よろしくお願いします」
友田「ところで吉田くん、君は先ほど発声の事で悩んでいたんじゃないかい?」
吉田「え?まあ、はい…その、全然大きい声が出てなくって、『腹式呼吸』をするといいっていう話になったんですけど…でもよく分からなくって…」
友田「『腹式呼吸』か…いいね!」
間島「そうですよ!友田さんなら『腹式呼吸』についても教えられるのでは!」
友田「うん!無理だね!」
間島「えぇ!?」
友田「『腹式呼吸』を初心者に正しく教えるのは難しい、もし間違えて覚えてしまったりするとその間違いは癖となり後々に響く可能性がある。だから、腹式呼吸について学ぶのならしっかり教えられる声楽家等の専門家に習うのが一番だ!そして私は声楽の専門家ではない!よって『腹式呼吸』はパス!」
吉田「えぇ、じゃあどうすれば…」
友田「そうだな…吉田くん、部室のドアの前まで移動してくれるかな?」
吉田「え?あ、はい」
吉田は言われた通り部室のドアまで移動する。それに合わせて友田はドアの反対側の壁に移動する。
友田「吉田くんは焼肉とお寿司だとどっちが好き?」
吉田「え?なんですか急に?」
友田「いいから!」
吉田「うーん、普通に焼肉ですかね?」
友田「いいね!焼肉!私も好きだよ!ちなみに肉は牛、豚、鳥のなかだとどれが好きかな?」
吉田「えーと豚ですかね?」
友田「いいね!癖がなくって美味しいよね!ちなみカレーだと何肉かな?」
吉田「カレーは…鶏肉がいいかな?」
友田「チキンカレーか~!いいね!ちなみに、焼き鳥だと何が好き?」
吉田「そうですね、砂肝ですかね?あの触感が割と好きです」
友田「いいね!砂肝!お酒が飲みたくなってきたよ!お酒は割と飲むほう?」
吉田「いや、お酒はそんなに得意じゃなかったみたいです。それに甘いお酒じゃないと多分無理です」
友田「なるほど!なるほど!いいね!吉田くんの好みが分かってきた!今度一緒に食事にでも行こう!もちろん私のおごりだ!」
吉田「いいですけど…その、さっきからこれは何をしているんですか?」
友田「うん、実は今の私との会話、吉田くんの声はよく出ていたんだ!」
吉田「え?どういうことです…あっ」
友田「気づいたかな?…人間はよくできていてね。距離に応じて相手に聞こえるように無意識に声の大きさを変えているんだ。しかも本人の負担の少ない最適な発声法でね。つまり吉田くんは今の会話で無意識にしかも負担も少なく、この距離でもしっかり聞こえるような大きな声を出せていたというわけだ」
吉田「なるほど」
友田「小劇場程度ならこの距離で声が届けば、声の大きさは問題ないだろう」
吉田「つまり、俺はもう声が出せるようになったって事ですか!?」
友田「そうだね!その発声の感覚を覚えていつでも使えるようになれば声の大きさの問題はクリアできるだろうね!」
吉田「感覚を覚える?」
友田「そう!今は無意識にやっているが、これを台詞で意識的に使おうとするとなかなか難しい。だから、日々の練習で互いに距離を開け発声したりしてこの出し方の感覚を覚えると…いいね!」
吉田「なるほど…あ、これって、もしかして、もっと遠くに離れたらもっと大きな声が出せるようになったりするんですか?」
友田「いや、それは微妙だね!あまり遠くに離れすぎると逆に遠いことを意識してしまい、無理に声を出そうとして発声器官に負担をかけてしまう。だから練習するときの適切な距離は自分の発声器官に負担が掛からないぐらいの距離でやるのが大事だよ」
吉田「なるほど~、頑張ります!」
友田「いいね!君も素直な子だ。応援してるよ!」
吉田「え?は、はい!ありがとうございます!」
友田「…さて、いいタイミングだし、私はそろそろおいとまさせてもらおうかな!」
間島「えぇ!?」
福島「もう帰るんか?」
友田「うん残念だけど、明日も早いからね…できれば今日はみんなと飲みにでも行きたかったんだけど…代わりにこれでアイスかなんか買っておいで」
友田はサークルのメンバーにお金を渡す。
吉・川・間・福「わーい」
井上と友田を残して他のメンバーは部室から出ていく。
井上「いや~、ありがとうございました。ちょうど上手く教えられない事だったので、助かりました」
友田「なに、当たり前のことさ、頑張ろうとする後続を導くのも先達の務めだからね。あぁ、そうだ、新歓公演は今年もやるのかな?」
井上「えぇ、そのつもりです」
友田「そっか、楽しみにしてるよ!」
井上「はい、がんばります」
【吉田のマンション】
インタビュアー『私は今、いよいよ来週から公演が始まる『MAF』の舞台『涙泥棒』の会場に来ています』
吉田は風呂上りに、ドライヤーで髪を乾かしながら、なんとなしにつけているテレビを見ている。
吉田「(これ、この間も見た気がするな…)」
インタビュアー『ここで、主演を務めるこの方にお話を伺ってみましょう』
吉田「(主演ってことは主役って事だよな…どんな人なんだろ…)」
友田『みなさん!こんばんは友田優紀です!』
吉田「…は?」
画面の向こうに見覚えのある男が現れた。
インタビュアー『友田さん、どうでしょう?舞台の出来は?』
友田『そうですね~…』
友田は質問にハキハキと答えていく。
吉田「……」
画面の向こうの人物が数時間前に実際に会った人物だと、しばらく実感が沸かない吉田であった。
■登場人物
友田優紀(ともだゆうき)…絶賛活躍中の俳優。日本学教総合大学演劇サークルOB。身長190cm前半。基本はスパイラルパーマ、仕事により髪型が変わる事も多い。
吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。
川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。
間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。
福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。
井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。
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