第6話 『変わる日々』

ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~


第6話 その1『ヒーローごっこ』

作 えりんぎ♂


【大学構内】


 吉田が歩いていると大学構内にある巨大ウッドデッキの上でワイワイと騒ぐ声が聞こえた。

 そちらに目をやると子供達が数人集まり遊んでいる。

 もちろん不法侵入ではない、大学構内の図書館と食堂を除く建物以外は一般開放されており子供達も自由に出入りする事が出来るのである。


子供A「ちゅうにゅう!エナジーレッド!」

子供B「あーずるい!レッドはオレだ!」

子供C「オレも!オレも!レッドがいい!」

子供D「あ!じゃあ!オレ!ピンクやりたい!」

D以外の子供達「え?」


 D以外の子供達顔を見合わせ。


D以外の子供達「…どうぞ」

吉田「(…あれは、エナジージャーごっこかな?)」


 『元気戦隊エナジージャー』。人から元気を奪いそのエネルギーで世界征服を目論む『メランコリック大総統』率いる悪の組織『ダイダウナ―帝国』と戦うヒーローが主役の朝の子供向け番組だ。

 

吉田「(たまたまテレビでやってるのを観て以来、割と面白くって…地味にハマってるんだよな…ん?)」


 ヒーロごっこをして遊んでいる子供達グループとは別に少し離れたところに別の子供が1人様子を伺っている。


吉田「(あの子…)」

子供B「なあなあ、あいつさっきからあそこにいるけどなかまに入れてほしいんじゃね?」

子供A「あー、やだよ、あいつ知らないし」

子供C「そうそう!知らない知らない!」

子供D「そんなことより~早くやりましょうよぉ~」

子供A「…そ、そうだな、よし!気をとりなおしていくぜ!」


 子供たちはワイワイと盛り上がる。


吉田「(…そういえば、俺もこういうとき、上手く仲間に入れなかったな…頑張れ、少年…)」


 吉田がその場を後にしようとすると


?「ふはははは!楽しそうだな!エナジージャー達よ!」

子供達「だれ!?」


 子供達の前に見覚えのある大男が現れた。


間島「我は、ダイダウナー帝国のダークマッスル将軍だ!!」

子供達「ダークマッスルしょうぐん!?」

吉田「(何してんのあの人!?)」

間島「ダークマッスルパワーで人々からエナジーを吸い取り我が筋肉の一部にするのが我が野望!その為に邪魔になる貴様らエナジンジャーを葬りに来た!」

子供B「やべー!フシンシャじゃん!」

子供C「つうほうしよう!つうほう!」

子供D「だれか大人の人よんできてー!」

間島「待て!人を呼ぶと大変な事になるぞ!」

子供A「たいへんなこと?」

間島「そうだ!吸収したエナジーがなんやかんやで爆発し!ここら一帯は大変な事になる!」

子供達「な、なんだってー!」

間島「それを防ぐためには君達がここで我を止めるしかないのだ!」

子供B「どうする!?レッド!?」

子供A「ッ!やるしかねぇ!いくぞおまえら!!」

子供達「おう!!」


 子供達は間島に飛び掛かる。


子供B「くらえ、ブルーエナジーキック!」

間島「甘い!」


 間島はフロントダブルバイセップスのポーズで軽く受ける。


子供C「イエローエナジータックル!」

間島「効かん!」


 間島はサイドチェストのポーズで軽く受ける。


子供D「ピンクエナジ―ダイブ!」

間島「おっと!」


 間島はダイブしてくる子供を受け止め社交ダンスのようにくるりと回り、優しく地上に降ろす。


子供D「やだ、すてき…!」

子供B「くそお!レッド!あとはお前だけだ!」

子供C「やっちゃって!やっちゃって!」

子供A「う、うおお!レッドエナジーパンチ!!」

間島「ふっ」


 間島は子供のパンチを軽く受け止め。そのまま子供の脇腹を優しく掴み持ち上げる。


子供A「な、なにを!?」

間島「喰らえ、ダーク!高い高い!」


 間島は子供を高い高いする。


子供A「きゃははは!」


 間島は高い高いをすると優しく子供を降ろした。


子供A「…く、くそぉ…大人気ないぞ!」

子供B「そうだ!そうだ!大人が本気でやったらかてるわけないだろ!」

子供C「ずるい!ずるい!」

子供D「でも、そんなところもすてきかも…」

間島「ふははは!何を言っている!そもそも5人揃っていない貴様らの力など我に通じるはずがないだろう!」

子供達「…5人!?」


 子供達はハッとして離れて様子を伺っていた子供を見る。そして。それぞれ顔を見合わせて頷く。


子供A「ブラック手をかしてくれ!!」


 子供Aは離れて見ていた子供に声を掛ける。


離れてた子供「え!?い、いいの!?」

子供D「もちろんよ!」

子供B「たのむブラック!」

子供C「早く!早く!」

離れてた子「う、うん!」


 離れてた子が駆け寄り、子供達5人が間島に向き直る。


間島「ほう!小賢しい!全員揃ったか!」

子供A「いくぞみんな!5人そろえばエナジランチャーがつかえる!エナジーランチャーにエンジ―をこめるんだ!」

子供達「おう!」

離れてた子「お、おう!」

間島「さあ!打ってみろ!!」

子供達「うおお!エナジーファイヤー!!」


 子供たちはエナジーバズーカを撃つ真似をする。


間島「ッ!!ぐわぁぁー!まさか!全員揃った力がこれ程とは!?」

子供「ふっとべええ!」

間島「ぐわあぁぁぁ!!」


 間島、吹っ飛ぶ。


子供達「やったー!」

子供A「やるじゃねぇか!おまえ!」

離れてた子供「え?あ、ありがとう!」

子供B「このへんじゃみねーよな?どこ住み?つかlineやってる?」

離れてた子供「え?いちおう…やってるけど」

子供C「じゃあ、こうかんしよ!こうかん!」

離れてた子供「う、うん!」

子供D「あ!そろそろおやつの時間だわ!」

子供A「もうそんな時間か…じゃあみんなで行こうぜ!おまえも来るよな?」

離れてた子供「え?いいの?」

子供A「あたりまえだろ!おれたちもうともだちなんだしさ!」

離れてた子供「と、ともだち…うん!」


 子供達はワイワイと騒ぎながらその場を後にした。


間島「ふう…」


 子供達が去った後、間島は立ち上がる。その顔は少し誇らしげであった。


吉田「(間島さん、まさかあの子達が仲良くなれるように自ら悪役を…)」

?「あ~!君だね!」

?「はい、そこ動かないでね!」

間島「え?」


 間島の前に大学の守衛2人が姿を現した。


守衛A「子供達に声を掛けてる不審者って…君、だよね?」

間島「え?いや!僕はここの学生です!」

守衛B「そうなの?学生証見せてもらえる?」

間島「え?あぁ、えっと…あれ!?そうか、鞄に…!!」

守衛A「無いのかい?」

間島「え、えっと…あははは」

吉田「……」


 その後、吉田のフォローによりなんとか難を逃れた間島だった。



第6話 その2『初めてのグルメキャンディ』

作 えりんぎ♂


【サークルの部室】


吉田「おはようございます」

福島「ほい!おはようさん!」


 吉田が部室に入ると福島だけがいた。どうやら他のメンバーはまだ来ていないようだ。

 福島は机に飴を並べている。


吉田「何をしてるんですか?」

福島「新作のグルキャンが出たからそれの味を覚えとるとこや」


 ※グルキャン…全ての食べ物を飴にするというコンセプトのグルメ堂のスーパーお食事シリーズ、グルメキャンディの略称。


吉田「…なるほど」

福島「ちゅうわけで、ちょっと手伝ってくれへん?」

吉田「手伝う?」


 ≪5分後≫


 目隠しをした福島の前に飴が並べられている。


福島「今から、吉田くんがそこにある飴をウチに食べさせて、ウチはその飴が何か答える!それが合ってるかどうか教えてや!」

吉田「なるほど」

福島「じゃあ、1個目!てきとうに選んでな!」

吉田「てきとうに…」


 吉田は飴を見渡し、その中から目に付いたカニクリームコロッケ味を取る。


吉田「(カニクリームコロッケ味?想像がつかないけど、とりあえずこれにするか)…決めました」

福島「じゃあ、口に入れて」

吉田「はい」

福島「あーん」


 福島は口を開ける。吉田はその口に飴を入れる。


福島「ん…」


 バキッ!ガリッ!

 福島は口に含んだ飴を噛み砕いた。


吉田「え!?噛むんですか!?」

福島「飴いうたら噛むのが普通やろ?」

吉田「(そうなの!?)」

福島「ふんふん、この味…揚げもんやな…クリーミーな塩気に…磯…カニや!これはカニクリームコロッケ味!」

吉田「(凄い、飴を食べてる感想とは思えない)えっと、正解です」

福島「しゃあ!どや!凄いやろ!」

吉田「え?あ、はい(凄いのか?わからん)」

福島「よっしゃ!ジャンジャンいくで!」


 こうして福島は計10種の新作グルメキャンディの味を当てた。


福島「ふう…全問正解やな」


 福島は目隠しを取る。


吉田「(確かにここまで完璧に当てるのは凄いのかも…)」

福島「協力してくれて助かったわ!おおきに!お礼に飴ちゃんあげんで!」

吉田「…遠慮します」

福島「なんでや!」

吉田「それ、吐くほど不味いんですよね?」

福島「不味くないわ!ええか!?吐くのは飴やと思って食べるからあかんねん!」

吉田「どういうことですか?」

福島「グルメキャンディは味の再現に魂を賭けとる…その再現力は飴の味=味の元になってる食べ物と言っても過言ではない程にや…つまり、始めから飴を食べてると思うんやなくて、その味の元になってる食べ物そのものを食べてると思えば問題なく食べられるんや!」

吉田「それはもはや飴にする意味があるんですか?」

福島「あるで!」

 

 福島はそう言いながら7個の飴を吉田の前に置く。


福島「オードブル、スープ、ポアソン、グラニテ、ヴィアンド、デセール、カフェ」

吉田「コース料理?」

福島「せや!この7つの飴はとある高級コース料理の再現をした、コースシリーズのうちの1つ!こういう風に本来高い食いもんも飴として再現する事で手軽な値段でその味を楽しめるというわけや!」

吉田「なる…ほど…」

福島「ものは試し…先ずはこれを食うてみぃ!ローストビーフのコリアンダーソース添え味!」

吉田「いきなり肉料理!?」

福島「ええねん順番はどうでも!コースのメインいうたら肉料理なんやから肉食ってればええねん!」

吉田「コース料理の意味が…」

福島「ほい!」


 福島は吉田に飴を渡す。


吉田「…」


 吉田は受け取った飴を見つめる。


福島「はよ!はよ!」


 吉田は恐る恐る、小袋を開け飴を取り出す。


吉田「…い、いただきます」

福島「はい!どうぞ!」


 吉田は飴を口に入れる。


吉田「…!(これは…!牛肉!?…飴なのに牛肉の味、それに匂い…そして、塩気…やばぁ…)ウぇ…」

福島「吉田くん!イメージしぃ!それは飴やない!ローストビーフや!」

吉田「!!(そうだ!これはローストビーフ!ローストビーフなんだ!)」


 吉田は必死にローストビーフをイメージする。


吉田「(ローストビーフ…確かに、これはローストビーフの味だ…食感がおかしいけど、間違いなくローストビーフがここにある!)」

福島「おぉ!超えたようやな!なら、噛んでみ!中にソースが入っとるで!」

吉田「(なるほど、チーズINハンバーグみたいにソースが中に入ってる構造なのか、どおりでコリアンダーソースとやらの味がしない訳だ…)」


 ガリッ!

 吉田は、飴を噛む。すると中からソースが溢れてきた。


吉田「(凄い!本当にソースが…濃厚な味がす…ん、なんだ?この風味?どこかで…そうだ…これは夏の夜、街頭とか自販機にいっぱい集まってるあの…)」

福島「ちなみにソースのコリアンダーちゅうのはパクチーの別名なんやで」

吉田「…オ」

福島「オ?」

吉田「オ゛ぇえぇぇ!!」

福島「吉田くん!?」


 吉田はパクチーが苦手だった。



6話 その3『好きな飲み物』

作 えりんぎ♂


【大学構内の自販機前】


 演劇サークルの休憩中、吉田は自販機の前で何を買うか迷っていた。


吉田「うーん…」

井上「何を悩んでいるの?」


 悩んでいる吉田に井上が声を掛けた。


吉田「あ、部長…いや、その、飲み物どうしようかなって思いまして」

井上「飲みたいのでいいんじゃないかな?」

吉田「それでいいんですか?」

井上「え?どうしてだい?」

吉田「前に川村さんと間島さんが飲み物で揉めてたじゃないですか?」

井上「揉めてた?…あ~」


 間島『練習中に炭酸飲料とは言語道断!』

 川村『うるせぇ!てめぇの烏龍茶も大概だろうが!』

 ※1話参照


井上「あったね」

吉田「だから、演劇をやるときの飲み物は何が良いのかなって…」

井上「なるほど~、確かに飲み物については諸説あるね」

吉田「やっぱり、あるんですか?」

井上「うん、でも本当に諸説だね。例えば炭酸、喉の刺激になって良くないっていう話もあるし、逆に喉の刺激が血行を良くして声が出しやすくなるって意見もある」

吉田「どっちが正しいんですか?」

井上「さあ、どうなんだろうね?その人の体質によって違うみたいだしなんとも言えないじゃないかな?」

吉田「えぇ」

井上「まあ炭酸の問題で思いつくのはゲップが出やすくなる事かな?」

吉田「そこ?」

井上「練習中はいいかもしれないけど、本番の舞台中にゲップが出そうになると大変でしょ?」

吉田「確かにそれは大変そうですね」

井上「炭酸はそんな感じだと思うよ?」

吉田「じゃあ、烏龍茶とかは?」

井上「それもよく言われてるやつだね。烏龍茶は喉の油を取ってしまうとか、お茶の利尿作用によって喉が乾燥しやすくなっちゃうとか…ただ、これも人によるみたいで喉の調子が悪くなる人もいるけど、別に全然平気な人もいる。つまり、これもその人の体質によって違うって事だね」

吉田「なるほど」

井上「あとは乳製品とか糖分の入った飲料とかも色々あるけど、結局、合う合わないは個人差があって絶対って言えるようなものは無いかな」

吉田「なるほど…じゃあ、つまるところ自分の体質とかに合う物を飲めばいいって事ですか?」

井上「そうだね…と言いたいんだけど…たまに、人によっては『それは飲んだらダメでしょ!』みたいに怒られるときもあるんだよね~」

吉田「えぇ、そんな事あるんですか?…いや、たしかに川村さんと間島さん言い合いしてたもんな…」

井上「まあ、本当にたまにだけどね。でも、もしそういう事になりそうなときは周りの人が何を飲んでるかを見て怒られてない飲み物が何かを推測して自分の飲み物を選ぶといいかもね」

吉田「まさか飲み物にそんな読み合いが…う~ん、争いを生まない安全な飲み物ってあったりしないんですかね?」

井上「…あるよ」

吉田「え!?あるんですか!?」

井上「うん、水だね」

吉田「…水」

井上「うん、そういう怪しいときは水が無難な選択肢かな」

吉田「…なるほど」


 吉田は自販機に向き直る。


吉田「…水かぁ」

井上「ふふっ、好きなので大丈夫だよ?うちのサークルは飲み物の決まり無いからね」

吉田「本当ですか!?」

井上「うん」

吉田「…じゃあ」


 ピッ

 吉田は自販機のボタンを押した。

 ゴトンッ


井上「何買ったの?」

 

 吉田は買った飲み物を井上に見せる。


吉田「おしるこです!」

井上「…おしるこ?」

吉田「いや~、自販機のおしるこってなんか魅力的じゃないですか?なんだかんだ結局、これにしちゃうんですよね」

井上「…吉田くん、君はなんていうか割と…ロックだね」

吉田「ロック?」


 ロックとは色々な意味を含んだ深い言葉である。



6話 その4『友達』

作 えりんぎ♂


【電車内】


 サークルの帰り、吉田と川村が電車に乗っている。座席は埋まっている為2人共立っている。


吉田「それで、間島さんが守衛さんに連れてかれそうになって大変でした…」

川村「ふははっ、あいつらしいな」


 普段通り帰りの電車内で吉田と川村はサークルの事だったり、大学の事だったりと他愛のない会話をしている。


男性客a「あれ見た?今度、新作出るんだってよ」

男性客b「6月のだろ?おまえ買うの?」

男性客a「いや、とりま様子見」


 近くにいる別の客の話が吉田の耳に入る。


吉田「(ゲームの話かな?…そういえば…)」


 川村『…趣味はまあ、ゲーム?』

※3話参照


吉田「あの、話は変わるんですけど」

川村「ん?」

吉田「前に趣味はゲームって言ってましたけど、どういうのやるんですか?」

川村「…あー、そうだな…」


 川村は少し考えて


川村「おまえ、ゲームとかするんだっけ?」

吉田「え?まあ、嗜む程度には」

川村「…そうか」


 川村はニヤッとした。


川村「時間あるか?」

吉田「?」


【駅前のゲームセンター】


川村「来るの、久しぶりだな~」

吉田「…ゲーセンだ」


 吉田と川村は2人の最寄り駅の近くにあるゲームセンターにやって来た。店の前まで来ると中から賑やかな音が聞こえてくる。


吉田「(ゲームセンター、大型スーパーに備え付けられているゲームコーナーはちょくちょく覗いたことはあるけど、こういうゲームセンターだけの施設ってほとんど入った事ないな…)」

川村「2階に行こうぜ!」

吉田「あ、はい」


 吉田は川村に言われるがまま2階に上がる。2階は主に格闘ゲームや音ゲー等が入っているようだ。


川村「お~、時間が時間だから、空いてんな」

吉田「よく来るんですか?」

川村「うん、最近は来てなかったけど、割とな。あたしがよくやってたのは、アレだ」


 川村が指さした先には格ゲーの『鉄子の拳』の筐体(きょうたい)が置いてあった。


吉田「『鉄子の拳』…(『鉄子の拳』…奥行きのある3D格闘ゲームの金字塔…そして、『鉄子の拳』はヤンキーが好んでよくやっているという都市伝説を聞いたことがある…)」

川村「おまえ、格ゲーってやれる?」

吉田「え?まあ、多分、それなりには…」

川村「マジ!?じゃあ、ちょっとやろうぜ!」

吉田「え?やるんですか?」

川村「いいだろ~?せっかく来たんだから!1、いや2先だけ!な!?」

※2先…先に2セット取った方が勝ちのルールの事。

吉田「わ、わかりました、じゃあ2先だけ…」

川村「よし!」


 川村はご機嫌で筐体の椅子に座る。

 

吉田「(ゲーム、本当に好きなんだ…)」


 吉田も筐体の椅子に座り、お金を入れる。


吉田「(…格ゲーか…実は昔、家庭用のアケコンを買うほど格ゲーにハマって、それ以来ちょくちょく色んな格ゲーを触っている。もちろん、この『鉄子の拳』も例外ではなく、それなりに動かせるはずだが…。しかし、格ゲーか…格ゲーは知り合いと楽しくやるのには難易度が高いゲームだ。実力差が出やすいゲーム性故に、相手との実力差がある場合は一方的な蹂躙となってしまう…以前、林とうちでやったとき手加減せずにボコボコにしたら『つ、つ、つまんねー!!う〇ち!!う〇ちゲーだね!!』と壊れてしまった事も記憶に新しい…つまり、知り合いと楽しくやるためには相手の実力にあわせて接待する必要がある。…だが、川村さんはこのゲームをやっていると言っていた。露骨な接待や手抜きはバレる可能性がある…となれば、先ずは川村さんがどの程度の実力があるか図ることが先決か‥そうだな、1戦目はとりあえず様子見多めでやろう…)」


≪1分後≫


ゲーム音声『PERFECT』

吉田「は?」


 ゲーム画面では吉田のキャラが敗北している。


川村「吉田~、おまえ様子見したな?」

吉田「…っ!(見抜かれた…だと!?)」

川村「大方、あたしの実力をみて接待でもするつもりだっただろうが…

それじゃあ弱すぎてつまんねぇよ。あたしを楽しませたいんだったら、遠慮せずに本気で来い」

吉田「…わかりました。…後悔しても知りませんからね!」

川村「ふっ、どのみち勝てんぜ、おまえは」


≪5分後≫

 

ゲーム音声『YOULOSE』

吉田「…つ、つよい」


 ゲーム画面では吉田のキャラが敗北している。


川村「たいあり!2戦目以降は動き良かったぜ、やるじゃねえか!楽しかったぜ!」

吉田「そ、そう、ですか?楽しめたんだったら良かったです…」

川村「よし!じゃあ、飯でも…」

吉田「あ、あの…!」

川村「うん?」

吉田「1回!いや、2先だけ…!あれ!やりませんか!?」


 吉田はそう言って別の筐体を指した。


川村「…『GF』…へぇ、もしかして、おまえのメインゲーム?」

吉田「まあ、そんな所です…(そう、『GF』…『ゴッド・ファイターズ』スタンダードな2D格闘ゲームで、俺が格闘ゲームの中で1番やりこんでいるゲームだ…)」

川村「いいぜ!確かにあたしだけ自分のメインゲームで気持ちよくなるのは不公平だもんな」


 吉田と川村は『GF』の筐体に座る。


吉田「(川村さんが格ゲーが上手いのは分かった…だから、今回は最初っから手加減は無し全力でやる!)」

 

≪1分後≫


 画面上で吉田と川村のキャラが戦っている。

どうやら、川村が優勢のようだ。


吉田「(つ、つよい…!!なんて息苦しさだ…!)」

川村「~♪」


 苦しくなった吉田が飛んで上から攻撃しようとするが


川村のキャラ『フレイムアッパー!』

吉田「ッ!!」


 吉田のキャラは川村のキャラの技によって容易く、撃退される。


吉田「(これだ!この反応速度…!飛びや崩しが全く通らない!おまけに、絶妙な当て勘と読みの強さ…格ゲーのセンスがありすぎるッ!!)」

※飛び…飛び込み。ジャンプが起点になる攻めを仕掛ける事、これが通ると有利な状況に持っていきやすい。

※崩し…ガードを崩す事、中段、下段、表、裏、投げ等様々な方法がある。

※当て感(勘)…技の距離や相手の動きを予測して技を出したり置いたりする感覚(勘)の事。

川村「~♪」

吉田「ッ…!」


 吉田はなんとか川村の攻撃を凌ぎ、攻めに転じる。


吉田「(くっ!!立ち回りで勝てない!‥なら!)」


 吉田は、川村に攻撃をガードさせて固めの連携を行う。

※固め…隙の小さい技等をガードさせて有利な状況を作る事。


吉田「(ここだ!この連携の最後はこちらが不利になる。そこで川村さんはいままできっちり反撃してきた!だからこそ!そこの不利フレームを無敵技で荒らす!行儀は悪いが流れを変えるにはこれしかない!)」

※無敵技…技を出しているときにキャラの喰らい判定が無くなる技、相手の攻撃に一方的に勝つ事が出来るが、一般的に技の後隙が大きく、ガードされたり、当たらなかったりすると手痛い反撃を受ける。


 吉田の固め連携の最後の技が出た瞬間。


吉田のキャラ『アイアンストーム!』


 吉田は無敵技を放った!!…しかし、


吉田「なっ!?」


 川村はガードしていた!吉田のキャラは無防備に宙を舞う!


川村「当たり!そろそろ、仕掛けて来ると思ってたぜぇ!」

吉田「(読み…負けた!?まずい‥!!)」


 当然、吉田の無敵技の硬直に川村は最大コンボを叩きこむ!


吉田「あっあっあっ…」

川村のキャラ『キング!!プレイィス!!』

吉田「おぎゃぁぁ!!」

ゲーム音声『KO!』


 吉田は敗北した。


【牛丼屋】


 吉田と川村がカウンター席に座っている。


吉田「川村さん格ゲー、強いんですね」

川村「まあな、おやじに仕込まれたからな」

吉田「お父さんに?」

川村「あぁ、おやじがゲーム好きでな、色んなゲームに付き合わされてさ、そしたらその影響でいつの間にかあたしもハマって、気が付いたら強くなってたんだ」

吉田「なるほど」

川村「しかし、いいもんだな。こういう風に友達とガチでやるのは」

吉田「!(…と、友達!?)

川村「すげぇ楽しかったわ、またやろうぜ!」


 川村はニコッと微笑んだ。


吉田「は、はい!ぜひ!俺も楽しかったです!」


 吉田にとって初めて異性の友達ができた瞬間であった。


 

6話 その5『充実した日々』

作 えりんぎ♂


【吉田のマンション】


吉田「ただいまー」


 吉田は自分の部屋に着くと、手荷物を置き。ベットに身を投げ出す。


吉田「……」


 吉田は寝返りをして、仰向けになる。


吉田「(今日も1日いろいろあったな…想えばここ1週間、毎日いろいろあったような気がする…演劇サークルに入って、サークルの人達と出会って、飲み会して、練習して…サークルに入る前に比べれば、1日1日が凄く充実してると思う…ただ、充実はしているけど俺は変われているのだろうか?)」


 吉田は、起き上がり自分の手を見る。


吉田「…わからん」


 ポコン♪

 吉田のスマホが鳴る。


吉田「ん?」


 スマホを見ると、演劇サークルのグループチャットに写真とメッセージが届いていた。


福島『このあいだ撮った写真上げんの忘れとったわ!』


 一緒に添付されている写真には吉田、川村、間島がベンチに並んで座ってパキコを吸っている姿が映っている。


吉田「これ、サークルに入った日だ」


 吉田は少し写真を見つめた後。


 ポコンッ♪

 吉田は『いいね』スタンプを送信した。


吉田「明日も頑張ろう」


■登場人物


吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。


川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。


間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。


福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。


井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。

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