第2話 『見学!演劇サークル!』
ようこそ演劇サークルへ ~大学で冴えない俺が演劇サークルに出会って人生変わった話~
第2話『見学!演劇サークル』
作 えりんぎ♂
【演劇サークルの部室】
間島「『来い!三本目だ!レアティーズ!まだ本気じゃないだろ!?甘く見るなよ!本気で来い!』」
川村「『お前が言うのか?いいだろう、遊んでやるよ!』」
福島の提案により、吉田に見せる為に間島と川村は『ハムレット』の物語の終盤を演じている。
間島が『ハムレット』役、川村が『レアティーズ』役、福島がそれ以外の台詞を横から入れている。
川村「『このぉ!!』」
間島「『うおぉぉ!』」
吉田「……」
劇中の終盤だけを抜粋して演じている為、『ハムレット』を読んだ事がない吉田は内容が全く分かっていないが、それでも本気で演技をする間島と川村の気迫に圧倒されていた。
福島「『ああ、親愛するハムレット…このぶどう酒、このぶどう酒の毒を私は飲んでしまった…』」
福島が外から2人以外の台詞を入れる。
実際に動いているのは間島と川村の2人だけだが、福島の台詞を受け、まるでそこに他の役がいるかのように演技が行われている。
吉田「(…これが演劇…)」
間島と川村の演技はとりわけて凄いわけでは無い。
だが、テレビドラマのように画面を通してではなく目の前で行われる本気の演技は、今までそういったものを観る機会がなかった吉田にとってはとても新鮮で印象的だった。
間島「『ホレイシオ、おれは死ぬ。毒が全身にまわってきた。イングランドの報告は聞けないだろう。だが、王位継承はフォーティンブラスだと…おれの遺言を伝えてくれ…そして起こったこと全てを彼に話してくれ……もう、言う事は…ない…』」
パンッ!
福島が手を叩き音を鳴らす。
福島「は~い、二人ともお疲れさん!しかし、最後だけやっても意味わからんな~」
川村「おまえがやらせたんだろ!」間島「あなたがやらせたんでしょ!」
福島「だって~演劇いうたら『ハムレット!』みたいな感じやん?イメージ湧きやすい方がいいと思ったんやけど…失敗やったな」
川村、間島、福島は演技を終え、吉田のところへ集まる。
吉田「(凄かった…内容はよく分からなかったけど、本気が、熱が伝わって来た。何かに本気で取り組む人ってこんなに生き生きしてて、こんなにかっこいいんだ…俺も本気で何かをやれたらこんな風に生き生きできる?…今のどうしようもない自分から変われる?)」
福島「すまんな~吉田くん。意味わからんかったやろ?」
吉田「え?…あぁ、いや、えっと…たしかに、話はあまりよく分からなかったですけど…その…なんていうか…す、凄かったです」
間島「凄かった!?本当かい!?」
吉田「あ、はい、皆さんが本気でやってるのが伝わって来て…それが、本当に、凄く…カッコよかったと思いました…」
間島「そうか!僕は凄くカッコよかったのか!」
川村「いや、おまえさっきのシコってたろ?」
間島「な、シコッ‥!?」
吉田「シ、シコった?」
福島「シコった…シコる…つまり、相手の事を考えずに自分だけ気持ちよくなる独りよがりの芝居。俗に言うオ〇ニー芝居って奴やな!」
吉田「え?オナ…え?」
井上「覚えなくって大丈夫だよ」
間島「シ、いや!やっていない!僕は真剣にあの場で役として!会話をしていた筈だ!」
川村「会話だぁ?しおりとあたしの台詞も聞かずにか?」
井上「2人共、そこまで。今回は詰める必要ないからそういうのは無し。とりあえずご苦労様、休憩がてらにアイスでも買っておいでよ」
井上が川村と間島にお金を渡す。
川村・間島「わーい」
福島「あー!ウチも!ウチも!」
井上「はい」
井上、福島にお金を渡す。
福島「わーい」
お金を渡された3人は部室から出ていく。
井上「吉田君もアイスいる?」
吉田「い、いえ!お構いなく!」
井上「そっか、…どうかな?演劇サークルは?」
吉田「え?えっと…す、凄かったです!とても…」
井上「あはは、そう言ってもらえると嬉しいね。みんな、凄いよね~。お芝居が凄く好きみたいでいつも本気でやってくれるから、とても助かってるんだ」
吉田「…やっぱり、ここにいる皆さんはお芝居…演劇が好きなんですね…」
井上「まあ、演劇サークルだからね。好きじゃないとやらないんじゃないかな?」
吉田「…」
井上「そういえば吉田くんは、どうして演劇に興味を持ったの?」
吉田「え?…興味?…」
井上「ほら、さっき興味があるって言ってなかった?」
吉田『…あ、えっと…はい、演劇に興味があってみたいな…へへ』
吉田「(…そういえばさっき、そんな事、言ったような…)」
井上「もしかして、舞台とか観て、それで興味を持ったとかかな?」
吉田「え?…あ、いや…(まずい、舞台なんてちゃんと見た事…いや、そういえば高校のときに文化祭で演劇部がやってたのを観たような…)あ~、まぁ、そう、そうですね。そういう感じで、興味が沸いた…みたいな…?」
井上「そうなんだ!どんなのみたの?」
吉田「ど、どんな!?えっと、その…えっと…こ、コメディ的な?やつだったような…」
井上「コメディか~、いいよね~コメディ、上手くいくと会場の空気がドンドン温まっていくあの感じ、まあでもやる側としては難しいんだよね~」
吉田「そうなんですか?」
井上「うん、テンポとか間の調節とか面白くみせる為にはいろいろな事に気を付けないといけないし、お客さんの反応を見てウケがいいときは次の台詞をまったりとか、状況にも上手く対応しないといけないからね。あと、こっちが意図してないところでウケたり、逆に意図しているところが全然ウケなかったり、まあでも、そういう思い通りにいかないところもやる上では面白いところなんだよね~」
吉田「へ、へぇ、深いんですね」
井上「そうだね~、深いよね~…そうだ、吉田くんはどんな舞台がやりたい?」
吉田「ど、どんな?」
井上「ほら今言った、コメディとかシリアスとかさ。あ~、でも、ジャンルで言うなら時代劇なんかもいいかな~、殺陣とか入ってるとわかりやすく派手でかっこいいし。ああでも、ウチでやるのはちょっと難しいか、いや、映研に協力してもらえばいけるか?いや、問題はそれより殺陣だよな…」
井上は1人で喋り続ける。
吉田「(…めっちゃ喋るなこの人…いや、そっか、そうだよな好きだからこんなに喋れるんだ。この人も、ここの人達も演劇が好きで、本気でやりたくって、ここにいるんだもんな…)」
井上「…やっぱり、ミュージカルといえば『レ・ミゼラブル』が…いや、でも最近だと、2.5次元とか最新のミュージカル事情も…」
吉田「あ、あの!」
井上「…ん?…あぁ!ごめん!僕ばっかり話しちゃって…」
吉田「いえ、その…ちょっと、お手洗いに行っていいですか?」
井上「あぁ、うん、どうぞ」
吉田「すいません、失礼します」
吉田は部室から出る。
【大学の廊下】
アイスを買って3人並んで歩いている間島、川村、福島。
川村「おまえ、また変なもん買ってんな」
福島「変なもんちゃうわ!グルメ堂のグルメアイスや!」
間島「それは何味なんですか?」
福島「たこわさ」
間島「…個性的ですね」
川村「考えただけで吐きそう、おぇ」
福島「ん?」
福島は中庭でグルグル同じところを回っている吉田を見つける。
福島「なあなあ、アレ」
川村「あ?アレ?…あいつ」
間島「吉田くん?」
【大学の構内(外)】
吉田は中庭で考え事をしていた。
吉田「(俺、演劇サークルに入っていいのだろうか?)」
林『今の自分から変わりたいと思ってるからだろ?』
吉田「(いや、それは、そうなんだけどさ…ここに入れば変われるかもっておもったけどさ…でも、演劇サークルの人達は演劇が好きで、だから、本気で演劇をやってる。それなのに、俺みたいな奴が『何か新しいことを始めて、変わりたかったから』とか、そんな理由で入るのは迷惑というか失礼というか…)」
間島「吉田くーん!!」
吉田「?」
間島が吉田めがけて走ってくる。
吉田「間島さん?」
ドドドドド!!
間島「吉田くーん!!」
吉田「ひぇ」
吉田は間島の勢いにビビり、逃げ出す。
間島「何故逃げるんだい!?吉田くん!?」
吉田「追われてるからですよ!!」
間島は吉田に追いつき並走を始める。
間島「逃げるから追っているんだよ!それより!君は今、見学の途中だったんじゃないのかい!?なぜこんな所に!?」
吉田「それは…!ちょっと考え事を!」
間島「考え事!?悩みがあるのかい!?僕が相談に乗ろうじゃないか!」
吉田「いや!大丈夫なんで!」
間島「何故だ!?吉田くん!?僕じゃ役者不足だということなのか!?」
吉田「とにかく追わないで下さ-い!!」
ガッ
焦って逃げようとしたためか吉田は何もないところで躓いた。
吉田「え?」
そのまま吉田は大きく体制を崩し盛大に転ける。
吉田「ずべぇぇ!!」
間島「吉田くぅぅん!?」
【大学の構内(ベンチ広場)】
吉田と間島がベンチに腰かけている。
間島「よかったよ、大きなケガをしなくって…」
間島は絆創膏を吉田の足に貼る。
吉田「なんか、すいません」
間島「いや、追いかけてしまった僕に非がある…すまなかった!」
間島は頭を下げる。
吉田「い、いえ、そんな、お気になさらず」
間島「ありがとう!恩に着るよ!…で、吉田くん、考え事とは一体なんだったんだ?」
吉田「…それは…」
間島「大丈夫!こう見えて!相談事を受けるのは得意だと自負している!」
吉田「……その…間島さんは演劇好きですよね?」
間島「あぁ勿論!筋トレと同じくらい好きだ!」
吉田「そうですよね。サークルの皆さんはみんな演劇好きで、だから演劇サークルに入ってるんですよね」
間島「まあ!そうだね!」
吉田「…でも、俺は違うんです」
間島「違う?」
吉田「俺は別に演劇に興味があるわけでも、好きなわけでもないんです」
間島「そうなのかい?じゃあ何故、演劇サークルに?」
吉田「…変わりたかったんです」
間島「変わりたかった?」
吉田「はい…俺、今の自分から変わりたくって、それで何かを始めようって、そんな時に偶然、演劇サークルのチラシを見てちょうどいいとなと思って見学に来たんです」
間島「なるほど?」
吉田「でも、さっきの皆の演技をみて…井上さんが本当に演劇が好きな事を知って…俺、いいのかなって思ったんです」
間島「どういうことだい?」
吉田「だって、みんな演劇が好きで本気でやってるのに…そんな中に、今の自分から変わりたかったとか、そんなてきとうな理由で入るのは失礼じゃないですか?」
間島「吉田くん、君はとても…」
川村「真面目な奴だな」
吉田「?」
声のした方をみると、川村が木に寄りかかりながら腕組みをしていた。
間島「川村さん、いたのか?」
川村「理由なんて、なんでもいいじゃねえか」
川村は木から離れ吉田に歩み寄る。
川村「確かに、サークルの連中は演劇が好きな奴しかいねえ。でも、別に全員が最初からそうだったわけじゃない。…あたしがそうだ、元々、演劇なんて毛ほども興味なかったが人に誘われて、渋々はじめたんだ」
間島「そうだったのか」
川村「だけどよ、やってみると存外面白くってさ…今は演劇と出会えてよかったと思ってる。」
川村は吉田の前に立つ。
川村「おまえさ、わざわざそんなこと真面目に考えるって事は少しは演劇が気になってるんだろ?」
吉田「それは…」
吉田はさっき見た2人の演技を思い返す。
吉田「そうかもしれません…」
川村「なら、やってみればいいじゃねえか?それでおもしろければ続けりゃいいし、無理だったらやめればいい、サークルってそんなもんだしな」
川村は持っていた袋から、真ん中から2つにパキッと割って分け合って食べることがコンセプトのアイス、通称『パキコ』を取り出し、半分にちぎり吉田に差し出す。
川村「あたしは歓迎するぜ?」
吉田「(…俺も、この人達みたいに…)」
吉田、差し出されたパキコを受け取る。
吉田「俺…演劇やってみたいです!」
川村は小さく微笑んだ。
川村「ああ、よろしくな、吉田」
間島「…いやそれ僕のパキコ」
【大学の構内(外)】
福島が息を切らして歩いている。
福島「はあはあ、2人共早すぎやわ…どこいって…ん?」
福島の目線の先のベンチに間島、吉田、川村が並んで腰かけパキコを吸っている。
福島「……」
カシャッ
福島はスマホのカメラで並んでいる3人を撮った。
福島「…ふ、なんや仲良くなっとるやんか…」
福島は撮った写真をしばらく眺めた後、3人のもとに駆け寄った。
福島「なぁ!仲間外れにせんといてぇ~!!」
こうして吉田は、暖かく演劇サークルに迎え入れられたのだった。
【演劇サークルの部室内】
井上「…誰も、帰ってこないな…」
他の部員が絆を深めあってる一方、井上はぽつんと1人、いつまでも座っていたのだった。
■登場人物
吉田康太(よしだこうた)…大学2年生。身長は170cmないくらい。髪の長さは長すぎず短すぎず。外を歩いているとよく知らない人に道を聞かれる。
川村(かわむら)あかね…大学2年生。身長は160前半。金髪プリンショートポニテ。小麦色の日焼け肌。学校や近所を徘徊するときはジャージかパーカー。
間島真(まじままこと)…大学2年生。身長は180前半。すっきりしたスポーツ刈り。黒ぶちの四角い眼鏡を愛用。ベンチプレス150kg挑戦中。
福島(ふくしま)しおり…大学3年生。身長は140前半。前髪ぱっつんショートヘア―。年齢確認率100%。
井上博人(いのうえひろひと)…大学3年生。身長は170前半。茶髪のミディアムショート。特技は後方保護者面。
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