第十一話:後輩と遊びに行く part3

 その後もクラゲと光を組み合わせた展示や、イルカが間近で見られる海中トンネルなんかを楽しんだ。

 都築はいちいち動きが大袈裟で面白い。

 イルカショーなんかはまるで子供のようにはしゃいでいた。


 なんとなく昔の自分を俯瞰して見ているような気分になっていることに気が付いて苦笑した。

 高校を卒業して二年経ち、いろいろと経験する中でどこか擦れてしまったのかもしれない。

 都築を見ていると、その失っていた何かが充足するように錯覚してしまう。

 それがなんだか新鮮な心地だった。



 そして現在。

 時間はまだ夕方近いくらいだが、俺たちは水族館から既に出て、再び車を走らせている。


「先輩、これってどこに向かってるんですか?」

「……どこだろ?」

「え! 何も考えずに走らせてたんですか?」

「ノープランだわ。一応、どっかで飯くらい食えればって思ってたけど、まだ結構時間あるよな。都築こそどこか行きたいところないの?」

「んー……じゃあ、せっかくここまで来たんで、この辺の観光地っぽいところ行きたいです」

「またアバウトな……」

「あはは。適当なのはお互いさまでしたね」


 どこかあったかな。

 ここら辺は観光できるようなところって意外と少ないんだよなー。


 そんなふうに考えながら頭の中をひっくり返しつつ行先を探していると、一つ心当たりを思いついた。

 面子が俺と都築ってところが少し微妙な気もするけど、まあ問題ないだろう。


「少し遠めだけどいいか? というか、ここら辺だとどこに行っても結構時間かかるし」

「私はいいですけど、先輩の方こそ運転疲れませんか? 私、免許持ってないので変われないですし」

「地方の大学生なめんな。このくらい問題ねえよ」


 △▼△▼△


「よし、着いたぞ」


 一時間と少し走らせると、ようやく目的の場所に到着した。

 駐車場は混んでいるというほどではなく、だけど閑散としているというわけでもない程度の埋まり具合だった。

 適当に空いている場所へと車を止め、二人揃って降りた。


 車を降りて少し歩くと、目の前に海岸が広がる。


「あれって……岩? ですか?」

「なんなんだろうな。一応なんとかって島の名前がついてたはずだけど」

「やっぱり適当だっ!」


 都築の言っているのは、目線の少し先にある三〇メートルほどもある巨大な岩塊だ。

 それが海の中にドンとかなり目立つ感じに存在していた。

 ここら辺一帯はこの地方ではそれなりに有名な景勝地であり、点々と生える松と海岸、そして岩島がかなりいい感じに風情を醸し出している。


 もうそろそろ夕方と言っても差し支えない時間だ。

 太陽はてっぺんをとうに通り過ぎ、夕日となって目の前の海へと落ちかけている。


「いい景色ですねー。もしかしてこれを見せに連れてきてくれたんですか?」

「まあな。でもそれだけじゃないぞ。ここは――」

「あ、先輩! あそこに何かありますよ!」


 言いかけている途中で都築が何かを見つけたらしく、指をさしている。

 見に行きましょうよ、の言葉に従って一緒に歩いてそちらへ向かう。


「鐘?」


 近くまで寄ると、木で出来た鳥居のような囲いの真ん中に大きな鐘が吊り下げられていた。


「なんだろう、これ?」


 都築が鐘を眺めながら首を傾げた。


「ああ。ここら辺はパワースポットになっていて、この鐘もその一環なんだ」

「へー」

「確か恋人の岬だとかなんとか言われていて、縁結びのご利益があるとかなんとか」

「……はい?」


 虚を突かれたような表情で、都築がこちらを見た。

 お、興味を引けたみたいだな。


「一応訊きますけど……先輩はどうして私をここに?」


 なぜかこちらの顔を窺うようにおずおずと都築に訊ねてきた。


「朝、車の中で『彼氏ほしい』って言ってただろ? だからこういうところ好きかと思ってな」

「――……あー、あー、なるほど。まあ、わかってましたけどね。そういうことですか……」

「あれ? 気に入らなかった?」

「いえ、そんなことはないですけど……。こういうところ、やっぱり先輩だなぁって思いまして」

「どういうことだよ?」

「そういうことですっ!」


 不満気なような、そうでもなさそうな調子だ。

 よくわからないけど、気に入らなかったわけではないから、いいのかな?


「……じゃあせっかく来たんだし、この鐘、鳴らしませんか?」

「一緒にか?」

「そうです」

「やめた方がいいぞ。これ確か、一緒に鳴らした二人は結ばれるとかそういうご利益があるやつのはずだし。一人で鳴らして運気高めた方がいいだろ」

「こんなところに男の人と二人で来てるのに一人で鐘鳴らしてたら、私がバカみたいじゃないですか。こーいうのは記念なんだからそれでいいんですっ」

「そういうもんか?」

「はいはい。いいから鳴らしますよ!」

「わかったよ」


 圧に押されて、一緒に下げられた紐を握って、前後に揺さぶる。

 それほど抵抗もなく、すぐにガラガラと音が響いた。

 何度か繰り返してから、手を離す。


「……よし!」

「本当によかったのか?」

「だからいいんですって。先輩も彼女いないんでしょ? ご利益あるといいですね」

「いや、まあ、俺は彼女いらないんだけど」

「恋人の聖地でそんなこと言わないの! もしかしたら案外、近くに先輩を見てくれている人、いるかもしれませんよ?」

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