第十二話:後輩と遊びに行く part4
その後、少し景色を楽しんで、比較的早くその場を後にした。
当初の予定よりもかなり遠くまで来てしまった。
ここからだと、帰るまでに二時間以上はかかる。
と言っても、家周辺に着く頃はまだ午後八時前だ。
少し遅めだが、それから夕飯を食べても許容範囲の時間だと思う。
そんな感じのことを相談しつつ、途中は休憩がてらパーキングエリアに少し止まったくらいで、他には特に寄り道もせずに帰ってきた。
失念していたが、都築は四月生まれなので、もうすでに二十歳になっている。
だがまだ飲み会の機会を逸して、アルコールデビューをしていないらしい。
そもそも周りはまだ十八歳だから大学の友達とは飲めないだろうし。
それならいい機会だし今日は飲んでみるか、ということで、先にアパートへ車を戻してから徒歩で近くの居酒屋に向かった。
「じゃあ……生二つ!」
席に着き、店員がお通しを持ってくるなりに都築が元気よく注文を入れた。
「え、生でいいの?」
「へへへ。一度やってみたかったんですよねー。ほら、ドラマとかでよく見るじゃないですか。密かに憧れてたんですよ」
「まあ、いいけどさ。そんなに美味いものでもないと思うぞ」
「えー、でもみんな美味しそうに飲んでるんだし、それなりでしょ?」
「だといいけどな。――さ、それより注文入れるぞ。何食べる?」
「んーっと、思いっきり居酒屋っぽい感じがいいです。普通はどんなもの食べてるんですか?」
「そうだなあ……」
メニューを見つつ、枝豆、だし巻き卵、シーザーサラダ、焼き鳥串の盛り合わせを注文した。
俺もサシ飲みの経験は多いほうではないし、何を頼むものかと言われてもわからない。
その場合も相手が紗香のことが多かったから、特に困ったりしなかった。
とはいえ、サラダ以外は居酒屋以外であまり食べることのないメニューだから無難なところだろう。
「じゃあ先輩、今日はお疲れさまでしたーっ! かんぱーい!」
「遅ればせながら誕生日おめでとう。乾杯」
カツン、と中ジョッキを軽くぶつけ、口をつける。
そして一口飲んだ都築が、うへぇと眉間に皺を寄せて舌を出した。
「苦っ! なんでこんなのみんな飲んでるんですかぁ……」
「そうなると思ったわ」
俺が思わず笑うと、都築は恨みがましい目でこちらを見た。
「言ってくださいよー……」
「言う前に注文してただろうが。――ほら、貸せ。俺が飲むから、都築は何か他の飲み物注文しろ」
「ありがとうございます。先輩ってなんだかんだ優しいですよね」
「普通だろ」
「ついでにもう一つ甘えちゃいますね。今度はちゃんと飲みたいので、私が飲めそうなのを選んでください!」
「あー、なんだろ。カシオレとか無難に飲めるんじゃない? 結構甘いし」
「じゃあそれで!」
都築はそのまま近くを通りがかった店員に手を挙げて呼び止め、注文を入れた。
ほどなくして運ばれてきたカシスオレンジを恐る恐る一口飲むと、「あ、これ美味しい」と嬉しそうにした。
そのままぐだぐだと料理をつまみながら、しばらく飲んだ。
初めての酒ということでペース配分が心配だったが、そこはきちんと弁えていたのか、一気飲みなどの無茶な飲み方はしなかった。
とはいえ、それでも酔いというものはいつの間にか回ってくるもので……。
「せんぱぁい。今日、ありがとうございましたぁ。へへ。楽しかったです……」
「都築、お前酔ってんな?」
「んー、どうなんだろー? 酔ってるように見えますぅ?」
「見える見える」
「ふふふ。じゃあ酔ってるんじゃないですかねぇ。なんだか楽しくなってきましたし」
都築の話し方がいつの間にか甘ったるいというか、力の抜けたというか、そういう感じに変わってきた。
身体もなんだかふらふらとしている気がする。
――これ以上飲ませるとまずいな。
そう思い、店員を呼んでお冷を頼んで飲み干させると、会計をして店を後にした。
「おい、都築。お前、家どこだよ」
「えー? んー……」
あ、これダメだ。
一気に酔いが回るタイプか。
もしかすると今まで気が張っていたのが、酒のせいで気が抜けてしまったのかもしれない。
「おい、寝るなよ? いや、寝てもいいけど、その前に家の場所教えろ」
「えへへ。これってもしかしてお持ち帰りとかされちゃうやつですかぁ?」
「いや、だからそうならないように家連れてくから、場所教えろって」
「あ、わかった。飲みなおすってやつですね? そこのコンビニでお菓子とか買って行きましょーよ。私、ポテチ食べたーい!」
「話通じてねぇ……」
だんだんと足取りも怪しくなってきた。
これはダメだ。
仮にこいつの家に放り込んだとしても、そのままぶっ倒れて脱水でも起こしかねん。
「わかった。これからうち連れてくから、それまでちゃんと歩けよ?」
「はぁい。わーい。先輩のおうちだぁ!」
「……お前、酒に慣れるまでは俺以外の男とは絶対飲むんじゃねえぞ」
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