第33話 真夏の夜の風



空を見上げると

厚い雲に覆われているせいだろうか

星も見えない夜


月明かりさえ届かない大地で

燻らせる煙草の煙が森へと消えて行く

風は横に強く流れている


明日は雨になるのだろうか


渓谷を見下ろせば

目の前の焚き火の煙が

遥か下界へと流れていく


私はこの山の中で

一本しか残っていない煙草に

火を付けるべきか迷っている


森の中から

好きなようにするさ

それが人生だろ?

と聞こえた声に

手のひらに握りしめていたオイルライターをポケットにしまい込む


誰も居ない森の中へ

これも人生だろ?

とうそぶいて立ち上がれば


見上げた夜空に

焚き火の爆ぜた音がする

それは真夏の花火のように

天空を焦がす線香花火


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る