第6話 特別一等室



氷の入ったグラスを傾けると

心は幼い頃に引き戻され

遠い海の記憶が蘇った


私は両親の希望した高校への受験に合格し

両親はプレゼントをと希望を訊いてくれた


中学生の時から一人旅に憧れていた私は

四国へ渡る船旅で

特別一等室を予約してくれるよう願った


一等室専用の客室では

10代ど真ん中の私を

中年の男達は訝しげに横目で眺め


グループで旅行している少女達は

特一へと導くデッキの扉から出てくる私を見て

興味津々のようであった


朝が来て

暗い海を朝日が登る前の海を見てみたいと

独りデッキへと出ると

強い風が私の髪を靡(なび)かせる


初夏の日の一人旅

海上の朝の潮風は冷たく

シャツから出た両腕を強く撫でる


ふと振り返ると

デッキの奥で

昨日の夜に見た少女達が

集まって毛布にくるまっていた


私の一人旅の高まる思いは既に消え

悲しい一つの思い出をひとつづつ

更に増やしていくだけに過ぎないことを

予感した

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