第六章 感謝の言葉

「もしもし・・・山中さんっ・・・・もしもーしっ・・・・。」

大きな声に気づくまで、何秒、いや、何分かかったのだろうか。


「は、はい・・・。」

ようやく正気を取り戻した私は、受話器に耳をあてた。


「良かったぁ・・・。」

電話の相手は安心したような声を漏らした。


「驚かせて申し訳ございません。御主人は無事ですから、安心してください・・・。」

その言葉がどれだけ自分を救ってくれたのか、表現できないほどだ。


「すぐに病院にお連れしたのですが、暫らく意識が無くて・・・いえ、脳波には異常がないようです。足が骨折されていたみたいで・・・すぐ手術することになって・・・全身麻酔なので・・・今もまだ、眠っていらっしゃいます・・・。失礼とは思いましたが、財布の中には社員証しかなくて・・・携帯電話は衝撃で壊れていて・・・御主人の会社に9時に電話して、ようやく山中様のご自宅の電話番号を聞いて、今、かけたところです・・・。」


説明を聞いている間、私の目から溢れた涙がシャツを濡らしていた。

嗚咽がこみ上げ、声を出すまで時間がかかってしまった。


「あ、ありがとうございます・・・。び、病院は・・・・どこでしょうか・・・?」

やっと絞り出した声に返ってきた答えは、家のすぐそばの総合病院だった。


夫は、圭君は家を出た後、大通りの交差点で飛び出した子供をかばって車に跳ねられたらしい。

朝でも遅めの出発だったので、手術の後、意識が戻るのは今日の午後になるようだ。


夫を跳ねた人は実直な人柄で、一晩中、夫のそばで見守ってくれたようだ。

私は急ぎ支度して、家を飛び出した。


地下鉄までの交差点を通る時、夫が跳ねられた場所を確認した。

もしものことを想像して、私は寒気を感じていた。


見上げると、青空が広がっていた。

私は雲の向こうに向けて、小さく呟いた。


「神様・・・ありがとうございます。」

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