第五章 見知らぬ番号
朝の陽ざしがカーテンから漏れている。
私は腫れぼったい目を開けると、ノロノロとベッドから抜け出した。
カーテンを開け、朝焼けのグラデーションを眺めながら身支度をした。
味のしない朝食を終えて洗濯物を干している時、電話のベルが鳴った。
携帯以外で電話が鳴るのはマレだ。
私の心臓は嫌な予感で早鐘のようになっている。
ゴクリと喉が上下した。
私は受話器をとると、掠れた声を出した。
「はい・・・山中です。」
言ったとたん、夫の言葉を思い出した。
「最近、物騒だから自分の名前は言わない方が良いよ・・・。」
それなのに、私は苗字を名乗ってしまった。
つくづく、自分の愚かさを後悔していると。
荒々しい声が受話器から聞こえてきた。
「良かった・・・山中さんですよねっ・・・。」
何か切羽詰まったような緊迫感のある口調だった。
「私・・・川本と申します・・・。」
全く、記憶の無い名前だった。
「申し訳ありませんっ・・・。」
大きな声に、私は何のことかさっぱり分からなかった。
「ご、御主人を車ではねてしまって・・・。」
言葉の意味を理解するまで、時間がかかった。
何故なら、その瞬間、私の意識が真っ白になったから。
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