第四章 未読のライン

「今朝のこと、ゴメンナサイ。」


私の一行は未読のまま、夜まで放置されていた。

いつもなら、どんなに喧嘩した後でも、すぐに返信してくれるのに。


会議なんかで「既読スルー」はあっても、未読状態が続くことは無かった。

なのに、今朝、別れてから十時間以上経過しているのに未読のままだ。


「怒ってるのかなぁ・・・?」

殆ど無言で家を出た夫の後姿が、私に後悔の念を抱かせる。


喧嘩したまま、死別した小説を読んだことがある。

どうしよう、圭君がもしも、事故にあっていたとしたら。


私は圭君の携帯に電話してみた。

「お使いになった電話番号は・・・。」


機械音が私の不安を増幅させる。

私は夢中で、ラインにメッセージを送った。


「圭君、返事して。」


「怒ってるなら、謝るから」


「おヒゲ、チクチクしても絶対、言わないから。」


「ねぇ、お願い。」


「返事、ください。」


そこまで打ち込んで。

私は反応の無い画面を見つめるしかなかった。


最後に一行。

私は打ち込んだ。


「チュウ、して!」


今、私が一番、してほしいこと。

おヒゲがチクチクしても、いいから。


いっぱい。

チュウ、してほしい!


大好きな圭君の腕の中で。

その温もりの中で。


チュウ、したい!

したいよぉ・・・。


夫に、圭君に届きますように。

私は神様にお願いして、眠りについた。


でも、結局。

私は一睡もできずに朝を迎えた。


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