第2話 『モダンタイムス』

私は、彼とのデートでは、いつも

同じ服を着ていく。

それが似合うねって彼もなんとなく

お気に召してくれている気がするから。

私は、同じ服で彼とのデートを満喫する。

カフェに入り、彼とお茶をしたあと、

二人で夜景の見えるスポットに行く。

彼は、煙草を吸う。

ふぅと煙を吐き出すと、噎せる。

無理しなくてもいいのにと思うけど、

昔好きだった女性が吸っていた

マルボロが、どうしても

吸いたいんだとあなたは笑う。

あなたの車で海まで来た。

寄せ打つ波が胸をさらっていく。

あなたは少し寂しそうに砂浜に座り、

海を眺めている。

私は、こうして見つめていることしかできないけど、

あなたは、それでも、

私を大切にしてくれる。

帰りの車の中ではあなたの運転で、

いつの間にか部屋に戻っていて、

あなたも疲れて眠っていた。

それでも私は、あなたの寝顔を見ながら、

今日あったことを考えていた。

海のさざ波の音を、海猫の歌声を

思い出しなから、

あなたはどんな夢を見ているのかなとうかがう。

翌日は、あなたは雨に降られていた。

傘を持っていくのを忘れてしまったみたいで、

ずぶ濡れになりながら、

屋根の下で私のことも拭いてくれたよね。

いつでもそんなふうに、

さりげない優しさで私を思いやってくれる。

あなたの気遣いには泣きたくなる。

だから、私もなにかできるかなと思うけど、

あなたのそばでこうしてあなたの表情を見ていることしかできないけれど許してね。

ある日を境に私が体調をくずしてしまって、

しばらくあなたのそばから離れていたけど、

病気が治ってからは、またあなたのために

駆けずり回れるかな。

この恋は、やかましくていそがしい。

春一番が吹く頃に、

花吹雪の舞う街を歩こう。

春が終わったら、

夏の緑に包まれよう。

秋が来たなら、

紅葉に染まろう。

冬が来たなら、

一緒に温まろう。

季節や時間も飛び越えて

いつでもあなたのことばかり、

風邪など牽いてやしないかな。

寒くないかな暑くないかな

考えて考えて、

時々、頭から湯気が出そうになるけど、

実際でないよ漫画じゃあるまいし 

なんてことを考えながら、

夜が来た。

街は静かに佇んで

今日もあなたを遠くから

眺めているだけで幸せで、

言葉にすることもない思いは、

まだ胸のなかにしまわれたまま

このままだと永遠に言えなそうだから、

いつかは言えるときのために、

讃美歌でも歌おうか。

なんて笑っているうちに、

お風呂上がりの麦酒を飲む

あなたを背中から見つめている。

優しい上腕二頭筋、

二の腕が、鍛えてますよと自慢気に私の方を見て、言うのです。

誉める時間もないけれど、

また再びあなたに抱かれるまでは、

椅子に座って、あなたと二人

映画を見ながら、微睡む土曜日。

あなたは気づかないでしょう

私の気持ちに。

だけどそれでいいのです。

諦めたわけではありませんが、

今はこの時間がただ愛しい。

窓の外には金平糖みたいな星が

流れて消える。

願い事は、叶っているから言わないよ。

この恋は、不思議な縁。

円を描くように丸い縁。

ひとつの道でつながってるから、

別れてもまた出会うように出来ている。

その時はたぶん、お久しぶりですなんて

春のように言うのだろう。

ふるさとの手紙を読むように。

タイムカプセルを開けるように。

新しい気持ちで、

言うのだろう。

それより、

大好きなあなたを思うと、

いてもたってもいられない。

だけどあなたは、明日も明後日も、

私を必要としてくれる。

やがて新しい恋をして、

あなたがそれでも私を

そばにおいてくれるなら、

私はそれでもいいと思ってる

大切な時間を提供したい。

思い出を刻み付けたい。

私は、明日もあなたのそばにいます。

この恋は、けっして叶うことのない恋

なぜなら、、、

私は、あなたのために

今日も時間を刻んでいる。

腕時計なのだから。

こうしてあなたの腕に抱かれて、

あなたの声を聞くだけで

いいと思えてしまう。

あなたの人生を共に歩けるだけで

いいと思えてしまう。


いつか壊れてしまうまでは、

私は、あなたのために

時間を刻もう。


かちりかちりと、恋の時間を

一分一秒に、心を込めて。


アイラブユーと言うように。

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