第5話

 大男はそれを押すと、「ズズズッ」とタイル製の壁が天井に上り、奥からエレベーターのようなものが現れた。


「エレベーターに乗れ! 早くするんだ!」

「さっさと乗れ!」

「ぶっ放すぞ!」


 真っ青なお客と小松は、用の途中でぼくを置いてエレベーター内に走り出した。

 ぼくは涼しい顔でエレベーターに近づき調べてみた。

 エレベーターは木製で、樫の木で覆われている。上から太い幾重にも結ばれたロープでぶら下がっていた。

 ぼくも大男に連れられエレベーターに乗ると、ゆっくりとタイルの壁が元通りに降りて、エレベーターは上昇していく。

 

 小松や大人たちは震えだして汚れたズボンを気にしていた。

 ぼくは大男に笑顔を向けて言ってみた。

「ぼくと小松がいなくなると、一日限りの凄腕の探偵が調べに来てしまうよ」

 大男たちはぼくに無言の圧力をかけてきた。

 最上階でエレベーターが止まった。

 ここは、6階の上の屋根裏部屋のような空間だった。


 板張りの床には、それぞれ集中的に太陽光を受けてしまう数人分の長いタオルが置かれ、その奥にはハンモックが幾つもある。その上に真っ黒く日焼けした大勢の大人達がいた。

 何故なら天井がなかった。

 代わりにギラギラとした太陽の猛射が部屋一杯を満たしていた。

「さあ、そこのタオルに横になっていろ!」

 お客と小松たちは真っ青になって、一斉に地面のタオルに横になりだした。

 真夏の猛射が執拗に目を痛ませているようだ。

 横になっている人たちは恐怖で何も言えないようだ。ぼくは寝ている大人たちや小松にも聞こえるくらいに大声を張り上げた。

「ぼく。サングラスを買うよ!」

 

 大型メガネ店から外に出ると、虹色のメガネを外してサングラスを掛けた。

 小松にもサングラスを買わせた。

 女子トイレでは何も起きなかったと、春奈が悔しそうだったけど、ぼくはこの町が一段と好きになった。

 本田さんはまだ店の中にいるみたいだ。

 この事件を解決する鍵はサングラスを買わないでトイレに行けばいい。


 あの大男たちは、町のマフィアだった。

 全国チェーン店のアイ玩の社長は、町一個買えるほどのメガネの在庫と維持費で悲鳴を上げていたのを、この町を牛耳るマフィアがつけ込んでしまい。マフィアは町の半分の人が掛けられるサングラスを横取りし、大量に売りさばく活動に手を染めていた。

 

 ぼくはこの町が楽しくて仕方がない。

 ぼくはこの町が好きだ。

 警察にはこの事を通報しないことにした。

 真っ黒に日焼けした大勢の大人たちはサングラスを買って家に帰って行った。

 

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アイ玩店での事件簿 主道 学 @etoo

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