五話 月楼会議(一)

「……成程、想いの力を利用して妖街道をお爺様の元に近付ける、か……」


 再び、陰陽亭にて。

 緋月と紅葉の提案を聞いた十六夜は、目を閉じて顎に手を当て、静かに思案していた。


「ど、どう……? できる……?」


 成功例があるとはいえ、思いつき自体は突飛なものだ。緋月はおずおずといった様子で十六夜の言葉を待っていた。


「うん、不可能じゃないね。むしろとてもいい案だ……現し世の持つ力はすごく強いからあちらへの影響は気にしなくてもいいし、何よりこれが成功したらこれから先凄く楽になる……!」


 十六夜は小さく手を叩いてパッと表情を明るくすると、柔らかい笑みのままその策が無謀でないことを示した。


「ほ、ほんとかっ!?」


 肯定的な十六夜の意見に、紅葉はずいと彼に詰め寄った。緋月もふんふんと鼻息を荒くしながら十六夜に近寄ってくる。


「ふふ、凄いよ二人とも、天才だ」


 そんな興奮気味の妹たちを見て十六夜は吹き出し、ぽんぽんと労わるようにその頭を優しく撫でた。


「やったぁっ! これで解決に近付いたねっ!」


「おぉっ! やったな緋月!」


 頭を撫でられた緋月と紅葉は、その喜びを表すようにお互いの両手をパンと合わせた。


「うん、本当に凄いよ、流石は緋月と紅葉だ。……とはいえ、そんな大規模な術を使うなら少し準備が必要だな……」


 手放しで緋月たちを褒めていた十六夜はふと冷静さを取り戻すと、再び顎に手を当てて思考回路を活性化させた。


「あー、だよな……そもそもどうやったらいいか分からんし……」


 その言葉に紅葉も賛同する。先程とは違い、対象は妖街道という大規模かつ概念的な存在だ。そもそも、先程と同じ術が使えるかでさえ分からないのである。


 悩む十六夜と紅葉をよそに、緋月だけは呑気にそうなのかと、首を傾げていた。


「……よし、それじゃあ一度作戦会議も兼ねて、月楼げつろうで話し合おうか」


 自分に触発され唸り始めた紅葉と、いまいち理解していないような緋月を見て、十六夜は自身の職場である月楼へ場所を移すことを提案した。


「うん、分かったっ!」


「おう!」


****


 所変わって妖街道中心街、月楼の前にて。


「ほわぁ……あたし月楼の中入るの久しぶりかも……」


「だな……、てか何回みてもでっけぇな……」


 二人はぽかんと口を開け、月楼の大きさを実感していた。

 確かに各街道を行き来するために中心街はよく通り遠巻きに月楼を眺めることはあったが、こうして近づいて見るのは久しぶりだ。

 

 五角形の、五重に層が重なった城とも見紛う程の大きな塔。赤と黒を基調とした壁に、ぐるりと建物を囲む小さな鳥居にも似た柵。

 下から見上げた時にはあまりの大きさに隠れてしまうが、その頂点には十六夜を表す三日月と晴明を表す五芒星――セーマンを象った装飾が掲げられていた。


 この圧倒的大きさを誇る月楼には、五つの街道をまとめる役所としての役割がある。そしてそれは、唯一神である十六夜の権力の大きさを表しているのでもあった。

 

「ふふ、それじゃあ二人とも、行こっか」


 何度見ても見慣れない様子の二人を微笑ましく眺めながら、十六夜は優しく声をかけ入り口へと足を進めた。

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