第111話柿崎饅頭店の復活?

再び、二階ホールの扉が開いた。

孝太を先頭に全員が入って来たのは、新作ケーキの時と同じ。

違うのは、全員が「柿崎饅頭店」の前掛けをしていること。


孝太の手の合図で、全員が動き出す。

祥子と美和は煎茶をいれて回り、それ以外は、焼き印が押された紅白の饅頭を配る。


煎茶と紅白饅頭が配り終えられた時点で、孝太があいさつ。

「皆様の前に置かれたのは、柿崎饅頭店の紅白饅頭と煎茶になります」

「焼き印をよく見ていただければ、柿崎饅頭と書かれているはず」


大使夫妻たちが、紅白饅頭の焼き印を見て頷くのを確認して、孝太は続けた。

「洋菓子職人、パン焼き職人の柿崎孝太ではありますが、先祖は饅頭屋」

「柿崎饅頭屋は明治期に、饅頭屋からパン屋に変りましたけれど」


そこまで話をして、孝太は、フッと笑う。

「たまたま、倉庫を整理していたら、柿崎饅頭のレシピを見つけてしまって」

「見たら、どうしても、作りたくなってしまって」

「まあ・・・座興として、お食べください」


孝太の言葉で、大使夫妻たちが、紅白饅頭を食べはじめる。


「うわ・・・これも美味しい」

「クッキリとした粒あんだね」

「日本に来て、餡子を知ったけれど、この餡子は特別に美味しい」

「紅白なので、おめでたい、の意味かな、それはうれしい」

「煎茶と実に合うね。このお饅頭」

「しかし、孝太君は器用だね、ケーキもパンもお饅頭も」


真奈が、孝太の隣に立った。

「その資料に描かれていたのですが、約130年前に、横浜におられる外国人の領事夫妻を集めて、今日と同じような、お饅頭とお茶の会が、この地で行われたとか」

「孝太と私は、それを見て、どうしても再現したいと思ったのです」

「柿崎饅頭店にも、日の目を見せてあげたかった」

「これも、先祖への供養かなと」


孝太が、苦笑しながら、続けた。

「もちろん、ご存知、ご理解いただけると思いますが」

「あくまで、今日の今回限定のお饅頭です」

「これは、柿崎パン店でも、田中珈琲豆店でも、出せません」

「そもそも、柿崎孝太が作っている暇がありませんので」


これには、二階ホールの全員がドッと笑い、イベントは成功裏に、終了となった。

また、「お土産」として、柿崎パン店のコッペパンが配られ、ますます喜ばれることになったのである。


ただ、「イベント」や「お土産配布」は、終了になったけれど、各国大使夫妻は帰る雰囲気ではない。


フランス大使が厳しい顔で、孝太を手招き。

「あのクイーンホテルの馬鹿者の話だ」


孝太は驚いた顔になり、テーブルの中央の席に座ることになった。


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