第105話外務省高村次官の失脚

外務省高村次官は、外務大臣から呼び出しを受け、苦しい説明が続いている。


外務大臣

「官邸は、官房長官も総理も、かなり君にはお怒りだ」

「どうして、あんな物の言い方をしたのかね」


高村次官

「部下の情報からで、フランス大使夫人が音頭を取って、柿崎孝太のケーキを食べに行くと」

「私は、柿崎孝太など知らなくて、部下に調べさせたら、パリのケーキコンペで優勝とか」

「警備が心配になって、外務省に・・・私に何も報告が無いことも、あってはならないことと思い、警告をしたのですが」


外務大臣

「世界最高クラスのパリのケーキコンペで優勝・・・それは、日本人として、日本として、誇るべきことではないのかね」

「それを逆に責めるようなことを言ったとか」

「そもそも、どうして、それを知らないのかね」

「海外に出た日本人の、そんな素晴らしい情報を君は何も知らなかったと言うのかね?」


高村次官

「・・・はい、それは事実で・・・知りませんでした」

「パリの日本大使館からメールは確かに届いておりましたが・・・」

「たかがケーキのことと・・・」


外務大臣

「たかがケーキ?何だね、それは・・・」

「世界のトップクラスのケーキコンペと聞いたよ、私の情報では」

「つまり、世界中のケーキ職人、ケーキファンが注目するような」

「でなければ、あの美食家のフランス大使夫妻や、各国大使たちが、柿崎孝太君のケーキを食べに行く、そんな話になるわけがない」


高村次官

「確かにそうかもしれませんが・・・柿崎孝太は、横浜の小さな民間のパン屋の息子らしくて」

「それと、そんな身分のアジアの日本人の男が、格差に厳しいヨーロッパで目立つことは、危険なことと思いまして」


外務大臣

「高村君、君の・・・そのアジア人とか、日本人とか、民間とかを下に見る意識が問題なんだ」

「外務省の君が、そんな劣等意識を押し付けてどうするんだ」

「それと、警備のこととか何とか、外務省に報告が無いとか、柿崎君を酷く責めたそうだね」

「そもそも、外務省に報告義務はあるのかね?」

「全ての外国人が日本の食堂に入るのに、外務省に報告するルールがあるのかね?」


高村次官

「いや・・・それはありませんが・・・せめて大使館関係とかセレブの人は・・・」

「何かあった場合に特に、外務省の責任になりますし」

「柿崎孝太には、その認識が欠如していたものですから、注意を行ったのですが」


外務大臣

「高村君、君は何か勘違いしていないか?認識が欠如しているのは君の方だ」

「そういう情報が入ったら、外務省で警備の手伝いをするのが、申し入れるのが本筋と思うけれど」


高村次官は苦しい顔。

「それでは、外務省で手配しますか?」


外務大臣は、顔に怒りが見える。

「もう、遅い、官邸が先に動いた」

「神奈川県も横浜市も、地域の名誉をかけて警備すると言っている」

外務大臣の顔が厳しくなった。

「これは、外国の要人警護を出来ないという、外務省の恥で、失態にあたるよ」

「そして、その原因、責任は、高村君・・・君だ」


顔を青くして下を向く高村に、外務大臣の追撃。

「マスコミも感づいている」

「外務省高村次官の高圧的な態度・・・神奈川県、横浜市が情報を流したとか」

「それも官邸がリークしたとか」

「それと、君自身が旅行会社からの不透明なリベートをもらっているらしいとか」

「航空機への優先的なファーストクラス要求と料金未払いとか」


ガタガタと震えだした高村を横目に外務大臣は内線のボタンを押す。

程なくドアが開き、官僚が一人入って来た。


外務大臣

「高村君の後任の、佐藤君だ」

「高村君には、ブラジルに行ってもらう」

「あるいは・・・君の問題が顕在化したら、懲戒解雇だ」


高村次官は、意気消沈、肩を落として、大臣室を後にした。

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