第95話クイーンホテル本部の横暴(1)
少々心配された、新パティシエ松浦奈津美と深田美紀の関係は、全く問題が発生しなかった。
ケーキ作り(新作を含めて)は、松浦奈津美の天性も言える明るさと、深田美紀の心を入れ替えたような熱意により、素晴らしく効率の良いものとなった。
これには、孝太を含め、柿崎パン店と田中珈琲豆店のメンバーも、安心したところであるが、また、新たな問題が発生してしまった。
ようやくケーキ作りの負担が減り、パンとケーキの「新作」を考え始めた孝太に、赤坂クイーンホテルの田村支配人から、連絡が入った。
「クイーンホテルの本部から、孝太君に、またケーキのイベントを考えて欲しいとの話だ」
孝太は、耳を疑った。
「すでに、クイーンホテルは辞めていますし、正式な書類もいただいております」
「今は、パン屋とケーキで非常に多忙、とても受けられません」
田村支配人は苦し気な口調。
「例の大使夫人のケーキイベントの大成功を、クイーンホテル本部のトップが相当に、喜んでいる」
「孝太君のレシピによるケーキも、赤坂だけではない、日本の、そして各国のクイーンホテルチェーンで、よく売れている」
「通常の5割増し程度だそうだ」
「だから、もっと、孝太君に手伝ってもらえ、と」
孝太は、機嫌が悪くなった。
「そう言われましても、私はクイーンホテルの人間ではありません」
「先程も言いましたが、冗談でも、そんな余裕もありません」
田村支配人
「孝太君の実情も、よくわかっている」
「その旨、申し上げたけれど、トップが聞く耳を持たない」
「直接、孝太君の店まで出向くとか、そこまで言っている」
孝太は、首を傾げた。
「来てもらっても、気持ちは変わりませんが」
「それがわかっていて、どうして?」
田村支配人は、ますます、苦し気な声。
「何か、よくわからないが・・・」
「自分たちの意向に反するものには、何をしても構わない、と考える人たち」
「もちろん、法に触れることは、しないと思うけれど」
「・・・思う程度だけれどね・・・」
孝太は、「何をしても構わない」の具体例を考え始めている。
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