第89話新パティシエ松浦奈津美(1)

「今まで黙っていたけれど」

ずっと考え込んでいた孝太が口を開いた。


「パリの菓子店で働いていた日本人のパティシエ」


「そのパティシエから電話があってね」

「俺の元で修行したいと」

「名前は、松浦奈津美、24歳」

「家は偶然にも、すごく近い、元町の老舗ケーキ屋の娘」

「腕と性格、感性は保証する」


祥子は美和の顔を見た。

「美和、知っている?」

美和は、首を横に振る。

「いや・・・知らない・・・孝太君、いつの間に?」


孝太は表情を変えない。

「最初に見たのは、パリのコンペの時」

「彼女は、その菓子店のスタッフとして、コンペに参加していた」

「入賞はしなかったけれど、俺は珍しい日本人パティシエだったから、仕事の様子を見たし、話もした、そこで元町のケーキ屋の娘と知った」


美和は、早速。賛成の意思。

「経営的には、全く問題ないと思うよ」

「それより、美紀さんが、イマイチ過ぎて、孝太君の負担も大き過ぎる」

祥子も頷く。

「孝太君が腕を認めるなら、大丈夫と思う」

美和は少し笑う。

「仕事に頑固な孝太君がそこまで言うのだから」

祥子も笑う。

「ようやく、スカウトしたのかな、弟子を」


孝太は、腕を組む。

「深田美紀には、いい刺激になると思う、同い年かな」

「いい結果になることを望むよ」

祥子

「早速連絡をしてよ、孝太君」

美和

「早く話をしたい」


孝太はブツブツと言いながらスマホでメールを打つ。

「実は、彼女、親父の葬式にも来ていた」

「忙しくて、ロクに話も出来なかったけれど」


メールを送った、ほんの一分後だった。


孝太はスマホの画面を祥子と美和に見せる。

「今から来るって、元町の実家にいるらしい」


祥子と美和は、「よし!」と、笑顔になっている。

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