第86話葬儀の後で

父の葬儀に関する全ての「行事」を無事に終え、柿崎パン店と田中珈琲豆店の面々は、着替えを済ませ、田中珈琲豆店で「ご苦労さん会」を開いた。

最初の挨拶は、当然、孝太。

「みんな、急なことだったけれど、協力してくれて、本当にありがとうございました」


保は孝太をねぎらう。

「いやいや、そんなに頭を下げないで」

「孝太君、立派だった、よくやり切った、みんな褒めていた」

「協力するのが当たり前、そういう関係なんだから」


真奈は、また泣いた。

「本当に、父さんの立派さが、よくわかった」

「こんなに慕われていたなんて・・・うれしくて・・・」

「でも、お骨になって・・・寂しくて、悲しくて」


祥子が真奈の背中を支える。

「やはり、横浜のパンの聖、ただパンが美味しいってだけではなくて、人間としてもおおらかで、頼れる人で、好きだった」

「大丈夫、真奈ちゃんと孝太君をきっと見守っているから」


美和も感激気味。

「お幸せそうなお顔で、眠っていらして」

「私もお話したかった」

「あれほどの人が弔問に来られるなんて・・・すごい人だなあと」


深田美紀は孝太に。

「孝太さんの挨拶、感激しました、すごくシンプルだけれど、一つ一つの言葉に、真心がこもっていて」


ミシェルも感激した一人。

「周りの人が、全部泣いていて、もらい泣き」

「それほど、お父様のパンが多くの人に愛されていたのかなと思うと」

「お父様のパンで育ったとか、苦しんだ時に生き返ったとか、そんな話があちこちから聞こえて来て」

「これは、すごい人のお葬式に参列したかなとか、光栄です」

「そのお店で働けるなんて」


アランは話題を変えた。

尚、アランのフランス語をヴィヴィアンが通訳する。

「孝太君、実はね、葬儀の時は忙しそうで言えなかった」

「孝太君のおじいさんが・・・僕とヴィヴィアンのおじいさん、パリのパン職人なんだけれど、知り合い・・・と言うか、孝太君のおじいさんが、パリで一緒」


孝太と真奈は知らなかったようで、アランとヴィヴィアンの顔を見る。


ヴィヴィアンは嬉しそうな顔。

「つまり、孝太君と真奈ちゃんのおじいさんが、私の曽祖父のパン屋に修行に来た、それで一緒、仲良しになったの」


孝太は驚いた顔。

「まさかヴィヴィアンのご先祖のパン屋に?じいさんが?」

「柿崎家は、代々、饅頭屋で、明治期にパン屋になったとは聞いたことがある」

「横浜で、外国人も多かったから、そのほうが商売になると言うことでね、これは父さんから聞いた話」


ヴィヴィアンは続けた。

「それでね、何故、孝太君と真奈ちゃんのおじいさんが、フランスの私の先祖のパン屋に行ったのか、それがわかったの」


アランは、少し涙顔。

「すごく・・・神のご意思と言うのか、日本で言えば、縁と言うのか、驚いたよ」


孝太はアランを見た。

「アラン、もう少し具体的に」


その孝太の問いには、ヴィヴァンが答えた。

「外人墓地に行きましょう、それでわかります」


保が全員に声をかけた。

「明日も休み、だから明日行って見よう」


全員が頷いている。

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