第84話父の葬儀に向けて

孝太は、まず葬儀屋(母の時と同じ)に連絡を取り、次に教会に連絡を取った。

母の葬儀の時は、パリから帰って来て、そのまま葬儀。

ほぼ父と真奈任せで何もしなかったことを思い出す。

葬儀屋は、すぐに病院に到着。

また、教会の神父も深夜にも関わらず、葬儀屋と同時に到着。

父の遺体に、祈りを捧げてくれた。


「柿崎様のご先祖は、明治維新まもなく、カトリックに改宗されています」

孝太は、神父の言葉も、よく耳に入らない。

とにかく、何をどうしたらいいのか、全くわからない。


葬儀屋が孝太に相談。

「教会に運びますか?それともご自宅に一度」

「それで火葬場の予約も変わってきます」


孝太は迷わなかった。

「一度は自宅に、近所の商店街でお世話になった方々も多いので」

「父も一度は自宅に帰りたいと思うでしょうから」


葬儀屋との話がまとまり、「父」は自宅に戻り、座敷に安置された。

気がついていた田中保と祥子が、すぐに弔問に来た。


田中保は、父の遺体を見て、涙する。

「きれいな顔をして眠っているね」

「素晴らしいパン職人で、性格もほがらか、慕う人は多かった」

「レシピも隠すことなく、誰にでも教えた」

「美味しいパンを焼いてくれるなら、商売敵でもいいとか」

「それでも、柿崎パン店の行列は途絶えなかった」

「パン職人の聖、そんなことを言う人も多かった」

「私も、どれだけ、いろんなことでお世話になったのか・・・」


祥子は号泣状態。

「もう一度、話をしたかった」

「もう一度、あのコッペパンを食べたかった」

「いつもニコニコして、やさしくて」

「悩んでいる時も、大丈夫って必ず励ましてくれて」


孝太が、母の葬儀の時に呼んだ親戚たちの電話を調べていると、田中保が声をかけた。

「親戚さんたちには孝太君が連絡を取って」

「商店街には、僕がするよ、任せて」

「柿崎パン店も葬儀が終わるまで休業、田中珈琲豆店も休業する」

「葬儀は手伝わせて欲しい、私の妻の時も、お父様とお母様に手伝ってもらったから」

「施主は、何かと忙しいから」

孝太は、保の言葉に、本当に感謝した。


確かに、孝太は忙しかった。

葬儀屋との葬儀会場(教会)での飾り付けや、葬儀案内の文面他の段取りで手一杯。


真奈は、「深夜であること、パン屋の朝の仕込みが早いこと」も考慮して、ヴィヴィアン、アラン、ミシェル、美和、美紀に「状況説明」のメッセージを送った。

「父死去のため、柿崎パン店と田中珈琲豆店は、葬儀終了まで、休業します」

「本来は孝太から連絡するべきですが、今はてんてこ舞いなので」


メッセージを送り、少しボンヤリしている真奈に、ヴィヴィアンとアランからメッセージが返信されて来た。

ヴィヴィアン

「お棺にパンを入れたい」

アラン

「我が先祖とも深い関係のあった人」

「だから、枕元にパンをお供えしたい」


真奈は、また泣き崩れている。

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