第82話ケーキイベントの後で

柿崎孝太は、大使館夫人や大使館員が全員特別室を出た後、官房長官に呼び止められた。


官房長官

「今日は本当にありがとう、無理を言ってしまって」

孝太は苦笑い。

「いえ、明日から、またパン屋に戻ります」

官房長官も、少し笑う。

「俺も見に行ったよ」

「まあ、すごい行列で、驚いたよ」

孝太

「身体が休まることがありません」

官房長官

「こういうイベントを、今日の国以外にも、と思ったけれど」

孝太は首を横に振る。

「無理です、パン屋で精一杯」

「明日の朝6時には厨房に入るので、そうでないと間に合わない」

官房長官は、苦笑い。

「この後、支配人とパテシィエ長も呼んで、飲み会でも、と思ったけれど、とても無理だね」

孝太は、少し頭を下げる。

「申し訳ありません、せっかくですが」

「ベルギー、デンマーク、イタリアのパンコーナーも大好評で」

「それはうれしいのですが、その分作業も増えまして」


官房長官と柿崎孝太が、話をしている時間、ヴィヴィアンとアランは、フランス大使夫人に呼ばれていた。


フランス大使夫人

「今日はありがとう、フランスの面目も立ちました」

ヴィヴィアン

「いえ、全て孝太さんのシナリオ通りで」

アラン

「僕はパン屋なので、お土産のパンを焼く程度で」


フランス大使夫人は、話題を変えた。

「ところでね、少し気になったことがあって調べてみたの」


ヴィヴィアン

「と、言いますと?」


フランス大使夫人

「一度、外人墓地に墓参りしたほうがいいかもしれない」

「我が一族から出た一人が眠っている」


アランの顔が紅潮した。

「と言うと、先祖、血がつながった人が、この横浜に眠っているんですか?」


フランス大使夫人は、大きく頷く。

「ヴィヴィアンとアランのおじい様のまた先祖」

「フィリップって人・・・しかもパン屋で」


ヴィヴィアンも顔色が変わった。

「もしかすると、柿崎家とも?」


フランス大使夫人

「墓誌を見れば、何かわかるかも」


アランは、少し考えて「ハッ」とした顔。

「そう言えば、パン屋のじいさんが言っていました」

「日本の横浜から、かなり昔に、修行しに来た男がいたとか」

「その人も、何か関係あるのかな」


フランス大使夫人は、微笑んでいる。

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