第80話ケーキイベント(2)当日

赤坂クイーンホテル内の特別室で、フランス、ベルギー、デンマーク、イタリアの各国大使館夫人のためのケーキイベントが始まった。


テーブルは三つ。


大使館夫人たちの四人テーブル、各国大使館員と日本外務省のテーブル、もう一つは柿崎パン店と田中珈琲豆店のテーブルである。


司会は、官房長官。

「本日は、フランス、ベルギー、デンマーク、イタリアと、我が日本の友好親善のために」

「我が日本が誇るパティシエ柿崎孝太が、腕を振るいました」

「はなはだ簡単な挨拶になりましたが、出来立てのケーキの美味しさの方が大切」

「それでは、是非、ご堪能ください」


拍手の中、柿崎孝太が特別室に入って来た。

「私の思いはケーキで」と、大使館夫人たちにウィンク。


赤坂クイーンホテルのパティシエたちが、チョコレートケーキを配り始める。


まず、フランス大使夫人が、喜びの声。

「このチョコレートケーキは、孝太さんオリジナルね」

「うわ・・・中に、新鮮なフルーツが・・・これは・・・天国の味」

ベルギー大使夫人は孝太にウィンク。

「このチョコレートは、最上級ね、さすが」

「深みがあって、飽きが来ない」

デンマーク大使夫人はうっとり。

「こんなケーキ・・・ヨーロッパではないよ、すごく繊細なようで、鮮烈、コクが違う」

イタリア大使夫人は、ため息をうく。

「やはり世界最高のパティシエ。シンプルなようで、どれだけの技術と思いが、このケーキに込められているのか・・・口に入れるたびに、食欲が増す」


大使館夫人たちが、ある程度食べ終わったところで、柿崎孝太は、大使館夫人たちのテーブルについた。

「それでは、お楽しみを、どういうお話になりますでしょうか」とクスッと笑う。


その直後、「お楽しみ」のケーキが、配られ始めた。


予想通り、大使館夫人たちのテーブルは、大騒ぎになった。

フランス大使夫人

「え?まさか?

「リヨンのタルト・ア・ラ・プラリン?」

「私の生まれた街のケーキ!」

「懐かしい・・・うれしい・・・美味しい・・・」

「はぁ・・・まさか、日本で・・・」

フランス大使夫人は、感極まって涙声になっている。


ベルギー大使夫人も感激。

「私も故郷のリエージュの、タルト・オ・リ」

「お米の甘いタルト・・・」

「これ・・・大好きでね・・・子供の頃、パパとよく食べたの」

「もう・・・胸がドキドキして・・・パパに逢いたくなった」


ノルウェー大使夫人はエーブレスキーバを見た瞬間から涙ぐんだ。

「まさか・・・と思ったけれど、香りでわかりました」

「子供の頃から、自分でもエーブレスキーバを焼いて食べて」

「家族とも、夫とも、そして子供とも」

「本当に、ありがとう、孝太さん・・・これはうれしい」


イタリア大使夫人は、テーブルに置かれたカッサータを見た瞬間、両手で拍手。

「ありがとう!孝太さん」

「これこそ、シチリアの誇り!カッサータ!」

「この、リコッタチーズクリームのコク、フルーツの爽やかな甘味と酸味、スポンジもチョコレートも最上で、バランスも完璧」

「私もデートの時は、必ず食べました」


もちろん、各国大使館夫人それぞれの出身地のケーキが、他の大使館夫人の前にも配られるので、全員が興味津々で、驚き、喜んで食べている。


少し間をおいて、孝太は立ちあがって大使館夫人たちに会釈。

「喜んでいただけたでしょうか?」


次の瞬間、孝太は大使館夫人たちに、次々に抱擁されている。


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