第74話アランの気持ち

アランは柿崎パン店での仕事が楽しくて仕方がない。


叔父の駐日本フランス大使ピエールから「日本に来ないか」と言われた時は、正直驚いた。

「パン焼き職人」ぐらいで、何故、日本まで行くのかと。


ただ、叔父ピエールの話が深まるにつれて興味が出た。

「パリのパテシィエコンペの優勝者柿崎孝太の店が混雑して仕方がないそうだ」

「ヴィヴィアンも手伝っている」

「日本人にパリのパンの美味しさを伝えて欲しい」


アランは、叔父ピエールの話に「心躍るもの」を感じた。

「日本か・・・日本も美食の国と聞く」

「あの柿崎孝太か・・・鮮烈で美味極まるケーキを生み出した彼がパン焼き?」

「混雑して仕方がないのだから、美味しいパンを出しているのだろう」

「パリのパンと同じか?それとも違うのか?」

「ヴィヴィアンも、その力を認めたから、日本に」

「パリのパンの味を日本に人に?それは面白い」


正直、パリのパン屋の仕事は、「同じことの繰り返し」。それに飽きていたこともある。

アランは、「意気に感じて」「二つ返事」で。叔父ピエールの誘いを引き受けたのである。


孝太のパンで、まず驚いたのは、コッペパンの味が、典雅なこと。

「これは・・・天使のパンか?」

「固過ぎず、柔らか過ぎず」

「甘く軽やかで、食べ飽きない」

「パリのコッペパンは、重い・・・鈍重な感じだ」


イギリスパンも完璧に焼いていた。

「さすが、柿崎孝太だ、ポイントはしっかり押さえている」

「このイギリスパンも極上、パリの最高級ホテルのパンに匹敵する」

アンパンとクリームパンも面白かった。

「菓子のようだが、これは美味い、面白い」

「いつか、パリに持ち帰る」


柿崎孝太との話も面白い。

しっかりとした美味しいパンを焼きながら、実に謙虚。

「パン職人としては先輩」の自分を、しっかりリスペクトしている。

パン生地のこね方も、「細かな指摘」をすれば、孝太が即時に対応してくれるのが、実にうれしい。


その他、ベルギー、デンマーク、イタリアのパン職人との交流もワクワクする。

「遥か遠い日本にいて、他の国のパンの焼き方も学べるとは」

「パリにいれば、面子もあって、それは考えもしない」

「そして、それらのパンが日本人に、どう受け入れられるのか」


それと、孝太の妹真奈が実に可愛らしい。

フランス語が通じないのが、残念だけれど、とにかく笑顔が輝いている。

アランは、この真奈の笑顔を消したくない、と思った。

「もっともっと美味しく焼いて、真奈の笑顔を見たい」

アランは、そんなことで、ますます仕事が楽しくなるのである。


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