第70話新メンバーの加入 日本外務省からの連絡

話し合いから数日経った。

フランス大使館が仲介した焼き手のアラン、売り子のミシェルが柿崎パン店で働き出した。


まず、アランはヴィヴィアンの従兄で28歳。パリのパン屋の焼き手。大柄で、いかにも力強い。

孝太のパテシィエとしての名声は、よく知っていたけれど、柿崎パン店のパンを食べても驚いた。

「このコッペパンは・・・・いいね」

「クリームパンも、この日本独特のアンパンも美味しい」

「それと、チョコレートレーズンのパンは、芸術だよ」

アランは、パンの焼き手としての実力も確かだった。

すぐに柿崎パン店のパンの焼き方に慣れ、パンを焼く量の増加に貢献するとともに、孝太とヴィヴィアンの負担を軽くした。

ただ、やはり日本語はカタコト程度なので。ヴィヴィアンが教育することになった。


ミシェルはフランス副大使の娘で18歳。日本には6年住んでいるそうで、日本語は上手。

柿崎パン店と田中珈琲豆店の評判も既に耳に入れていたらしい。

「世界最高のパティシエの孝太の焼くパンとケーキ」を一つ一つ試食しては、満面の笑顔。

そしてスマホで写真に撮って、友人だろうか、拡散させる。

真奈とも、すぐに仲良しになり、レジも二台に増やして、行列は少し解消となった。


しかし、パンを焼く量が増加し、行列が多少解消された、と言っても、来店客は全く途切れなかった。

とにかく、朝の午前9時開店から、早い時は午後3時には、全て売り切れてしまう。

遅い時でも、午後4時頃という大繁盛が続く状態なのである。



さて、そんな状態の柿崎パン店に、日本外務省から連絡が入った。

「柿崎孝太さんですか、私、外務省の高橋と申します」

「折り入ってお願いしたいことが、あるのですが」


孝太

「はい、できれば手短に」

外務省高橋

「はい、ご事情は十分に把握しております」

「用件とは、フランス、ベルギー、デンマーク、イタリアの大使夫人が、柿崎パン店のパンを食べたいとのことで」

孝太

「それは、ありがたいことです」

外務省高橋

「今から、午後の1時頃にはそちらに・・・伺ってもよろしいでしょうか」

孝太は不安を覚えた。

「行列に並ぶ・・・ことになりますが・・・それでも?」

「かなり長い行列なので、失礼にあたるかなと」

外務省高橋は、少し笑った。

「ご心配なく、その行列も楽しみたい、とのことです」

「とにかく焼き立ての柿崎孝太さんのパンを食べたいとの希望です」

孝太

「それでは、お待ちしております」


その旨をさっそく、田中保に連絡。


田中保は、朗らかな声。

「いつか、こうなると思っていたよ」

「席は任せて欲しい」


孝太は、少しホッとしている。

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