第66話美和の謝罪 深田美紀が来た理由

美和と深田美紀が席に着き、再び話し合いが始まった。


祥子

「美和さんは私が呼んだの」


美和は深く頭を下げた。

「いろいろと、酷いことをいってごめんなさい」


真奈が美和に聞く。

「あの、どういう心境の変化で?」


美和は真面目な顔のまま。

「ホテルだと・・・結局、大きな力の部品の一つでしかない」

「使えなくなれば、簡単に捨てられる」

「でも、ここなら・・・面白い仕事ができそう」

「それも、みんなの力がすごい・・・それに加わって見たいな、と」

「あんな酷いことをいっておいて、申し訳ないけれど」


ヴィヴィアンは笑顔。

「明日からだよね、でもね、そんなこと言っている暇はないよ」

「座ることもできないほどに、動き続けるしかないの」


真奈が口を開いた。

「どっちの店にするの?」

「パン屋?喫茶?」


祥子は即答。

「喫茶にしましょう、私は翔子さんの接客を学びたいから」

美和は素直に頷いている。


ずっと黙っていた孝太が深田美紀を見た。

「ところで、深田さんは何故ここに?」


深田美紀は緊張気味に話しだした。

「あの・・・私も、赤阪のクイーンホテルで、伸び悩む・・・というか」

「変な先輩はいなくなったけれど、仕事が定番で・・・何も面白くない」

「孝太さんがいた時と比べると、今は全く張り合いが無くて」


孝太は、「うん・・・それで?」と、やさしい顔と声。

深田美紀の緊張を和らげようとする。


深田美紀は、バッグから一通の手紙を取り出して、孝太の前に置く。

「そんな私を見かねたのか、松田パティシエ長が・・・」

「孝太さんのところで修行して来いと」


孝太は、手紙を開いた。

「うん、確かに、赤坂クイーンホテルの手紙、松田パティシエ長の字」

「・・・孝太君、深田美紀を君の元で一人前にして欲しい」


そこまで読んで、孝太は苦笑い。

「・・・断りづらい・・・」

「しかも期限が書いてない、どうすればいいの?」


その質問には、美和が答えた。

「今度支配人に昇格する田村さんの決裁も受けています」

「研修中の給与は、赤坂クイーンホテルで持ちます」

「期限は、孝太君が決めていい、とのこと」


深田美紀が恥ずかしそうな顔。

「・・・要するに、孝太さんが私を一人前のパティシエとして認めた時」


孝太が返事に困っていると、真奈が深田美紀の手を握る。

「美紀ちゃん、よろしくね」

「で・・・それから、孝太兄ちゃんは、職人気質で頑固」

「時々、メチャ厳しいかも、それでもいい?」


孝太以外の全員がプッと吹く中、深田美紀は頷く。

「はい・・・それはそれは・・・厳しかった、よくわかっています」

「でも、それが楽しくて、励みになりました」


孝太は、ようやく頷いた。

「では明日から・・・期待している」


深田美紀は、ホッとしたらしい。

そのまま、泣き出してしまった。


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