第59話ヴィヴィアンと美和

 美和はヴィヴィアンを見て、迷った。


「何の話をすればいいの?」

「孝太のこと?パンのこと?」


ヴィヴィアンも、自分が孝太に訣別宣言を出されたことを聞いていると思う。

その不安が、美和の足を止めた。


そのヴィヴィアンは、笑顔で美和に近づく。

「美和さん、来てくれたの?」

「ありがとう、買っていただいて」


美和は、それでも何を言っていいのかわからない。

「うん・・・ご盛況のようで」と言うのが精一杯。


ヴィヴィアンは笑顔、弾んだ声で続けた。

「今ね、柿崎パン店の仕事が、本当に面白いの」

「孝太さんの仕事もすごいし、え?と驚くようなアイディアを出すし」

「真奈ちゃんも仕事がキレキレ、気が利くし、可愛いし」


美和は、ヴィヴィアンの笑顔に戸惑う。

「でも・・・ヴィヴィアンも孝太を・・・祥子さんは?」


ヴィヴィアンはそれでも笑う。

「うん、今のところは入り込めない」

「でも、私は祥子さんも好き、やさしいし、強いし、いい感じなの」

「とても嫌いになれないよ、祥子さんは」

「まあ、とにかく忙しいけれど、楽しい」


美和が何も返さないでいると、ヴィヴィアンは含み笑い。

「孝太さんを見て行く?」


美和は下を向く。

「え・・・いいの?」


ヴィヴィアンはまた笑った。

「今ね、孝太さん、へばっているの、筋肉痛で」

「実に情けない顔でね」


美和の足がようやく一歩動いている。

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