第58話真奈の対応 美和は「心の奥」に気づく。
真奈は、杉浦美和が店に入った時点で、寒気と違和感。
「あれほど酷いことを言ったのに、何故、来るの?」
「また大騒ぎするのかな、他のお客様に迷惑になるのに」
しかし、孝太を呼ぶ気はない。
「何を言うか、何をしでかすかわからない」と美和への警戒感が強い。
美和の気持ちはともかく、兄孝太は美和に対して、良い感情を持っていないことも十分に理解している。
美和はコッペパン、バゲット、クリームパンをトレイに乗せている。
しかし、店内は行列のため、レジにはまだまだ時間がかかる。
真奈は、目の前の客の対応で、少し落ち着いた。
「まずは、このお客様に笑顔、計算と、お釣りを間違えないこと、丁寧に袋に入れること」
それだけを思い、丁寧に対応。
わだかまりが強く残る美和にも同じ対応をしようと、決めた。
客の順番が進み、美和の番となった。
真奈は、今までのお客と同じように笑顔。
「いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございます」
「コッペパン、バゲット、クリームパンですね」
「お買い上げありがとうございます」
「合計で、500円になります」
真奈自身、「やや事務的かな」と思ったけれど、それ以上の言葉は出せない。
美和の後ろには、長い行列が出来ているし、美和で余計な時間をかけたくない。
「500円ですね」
美和は、500円を素直に支払い、真奈はパンを収めた紙袋を渡した。
美和からは、それ以上の言葉も何も無かった。
とにかくお客がつながっているので、美和もパンを買う以上の「行為」は無理だった。
さて、パンを買ったものの、あまりの客の多さに、真奈に声もかけられずに、店からはじき出された感のある美和は、このまま赤坂のホテルに帰る気にはなれない。
しかし、隣の田中珈琲豆店も大混雑、座るのにどれほど時間がかかるのか、わからない。
それと、祥子の顔も見たくない。
美和にとって祥子は、「孝太を奪い取った女」、顔を見れば自分自身、何を言ってしまうのか、予想もつかない。
「悔しいけれど、孝太と話も出来ないで帰るしかないの?」
「・・・でも、今日見ることができないと、次は何年後?」
「シンガポールに何年?最低3年はいるかな」
「次は日本とは限らないし」
美和は。パンの入った袋を抱えて、足が一歩も進まない。
思うのは、「孝太と話をしたい」だけ。
セレブも庶民も、どうでもよくなってしまった。
「好きだったの?実は?心の奥では?」そんな気持ちも浮かんで来る。
「失いたくないから、顔を見て話がしたいのでは?」
「でも、孝太にも真奈ちゃんにも酷いことを言ってしまった」
「しかたない・・・これでお別れ・・・身から出た何とかかな」
美和が諦めて、駅の方角に歩き出そうとした時だった。
「美和さん!」
声が聞こえて来た。
振り向くと、ヴィヴィアンが立っている。
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