第52話祥子の強さが、雰囲気を変える

考え込んでいた祥子がヴィヴィアンの顔を見た。

「ヴィヴィアンは、その答えでは納得できないよね」

「孝太君を追って、はるばるパリから来たんだもの」


ヴィヴィアンは驚いたような顔で祥子を見て、頷く。

「祥子さん、その通りです」

「実は恋敵」と思っている祥子から、そんな言葉が出ることが不思議で仕方がない。


祥子は孝太と真奈を少し見て、続けた。

「ヴィヴィアンが、孝太君と真奈ちゃんの状態をわかって」

「つまり、たいしたお金も受け取れないけれど、パンを焼きたいと思うなら」

「私は・・・私が口を出すことでもないかもしれないけれど、焼き手は増やしてもいいかな、と思うよ」


ヴィヴィアンは、祥子の言葉に、また驚いた。

「すごく強い人・・・」

「どっしりとして、好きなタイプ」

「・・・あるいは、孝太君が私にはなびかないと信じ切っているのかも」


しかし、祥子から投げかけられた言葉には、答えようと思う。

「私は、私が焼いたバゲットを日本の人に食べてもらって笑顔を見たい」

「それが実現されれば・・・お金は・・・後は孝太君に任せます」


孝太は、真奈の顔を見ながら、答えた。

「そこまでの気持ちなら」

「お願いしようかな」

「再開してみないと、結果はわからないけれど」


祥子は、うれしそうな顔。

「やはり、日本人としての心意気かな」

「はるばるパリから来てくれたヴィヴィアンだもの」

「・・・その後は、運命に任せましょう」


その祥子にヴィヴィアンは、また気持ちが押された。

「すごいや、祥子さん」

「私が逆の立場なら、同じことが言えたかどうか」

しかし、押されてばかりではいられない。

フランス大使の叔父から伝えられていたことを話す。

「そこで、叔父からの話です」


孝太と真奈、祥子と保の視線がヴィヴィアンに集中する。

ヴィヴィアンは笑顔。

「フランス産小麦粉のアルティザンを提供したい、とのことです」

「それと、来日するフランス人に渡す観光パンフレットに、必ず柿崎パン店と、田中珈琲豆店を乗せる」

「その申し出があるのですが」


まず孝太が驚いた。

「アルティザン・・・最高級」

「あれを使えるの?」


真奈は、困惑している。

「それも凄いけれど・・・フランス語を勉強しないと」

「間に合うかな」


祥子は笑う。

「ヴィヴィン先生に大特訓してもらわないと」


難しくなっていた「話し合いの場」は、一気に明るくなっている。


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