第42話歯止めが効かない美和

翌日の午後になった。

美和のスマホには、孝太から、何のメッセージも着信もない。

美和は立ちあがった。

「許せん、あの馬鹿」

「もう、歯止めが効かない」

美和自身、そう思ったらやはり止まらなかった。

メトロに乗り、最寄りの駅からはタクシー。

午後2時半には、パン屋の玄関をノックした。


しかし、パン屋からは、何も反応がない。

「あれ・・・あの馬鹿は居留守?」

「何よ、孝太の分際で」

「でも、真奈がいるはず」

「真奈まで居留守?」

「気に入らん、庶民の小娘が小賢しい!」

美和が再び思いっきりノックしようとした時だった。

パン屋の玄関が開き、真奈が顔を出した。


「あれ・・・美和お嬢様?」

「何か・・・御用ですか?」

と、目を丸くしている。


美和は、真奈の少し間延びした反応が、本当に癪に障った。

だから、つい、声を大きくしてしまった。

「いいから!孝太を出して!」

「全く気に入らない!」

「ねえ、早く!」


この大声には真奈もムッとした顔。

「確かに美和お嬢様には、お世話になりました」

「でも、兄を呼び捨てされる理由がわかりません」

「そもそも兄と連絡がついているのですか?」

「兄は、今日、美和お嬢様が来るなど、何も言っておりません」

「・・・突然押し掛けて来て・・・何の用事ですか?」


美和は、それでも引き下がらない。

「うるさい!」

「私を誰だと思っているの?」

「ゴチャゴチャ言わないで、孝太を出しなさい!」


真奈は呆れ顔。

「だから、兄に何の御用があるのです?」

「それを言って欲しいんです」


美和は、この反応に、ますます切れた。

「うるさい!孝太をホテルに連れて帰るに決まっているでしょ!」

「こんなチンケなパン屋にいつまでこだわるの?」

「庶民のパン屋?エサ屋でしょ?くっだらない・・・何が伝統の味?」

「だから馬鹿って言うの!」

「超セレブたちが孝太を望んでいるの!」

「だから、首に縄を付けても、連れて帰るよ!」


美和が、そこまで騒いだ時だった。

隣の田中珈琲豆店から、孝太が出て来た。

その後ろからは、祥子と保も顔を見せている。

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