第38話杉浦美和の不安 孝太と真奈のパン焼きが始まる

柿崎孝太は、真奈と帰宅後に、杉浦美和にお礼の電話をかけた。

「いろいろとご尽力ありがとうございました」

「退院手続きを終えて。今、自宅に妹を戻しました」

「また日を改めて、お礼に伺います」


杉浦美和は、混乱した。

「その言い方、丁寧過ぎ」

「退院日を教えてくれれば、手伝ったのに」

「・・・今さら仕方ないけれど」


柿崎孝太の口調は、どこか冷たい。

そして、「いえいえ、それには及びません、本当にありがとうございました」で、電話を切ってしまった。


杉浦美和は、実に混乱した。

「何か・・・やばい・・・急に遠い人に?」

「ケーキのイベントはやってくれるって父さんに聞いたけれど」

「それで私たちもおしまい?」

「孝太は庶民相手の田舎のパン屋に?」

「何が面白いの?それの」

「マジ?嫌だ・・・何故、ケーキを捨てるの?」

「あれほどの腕を持ちながら?」


しかし、今から孝太のところに押しかけるのも、迷惑と思う。

「迷惑な上に、重たくてしつこくて、うざい女?」

「この私が?田舎のパン屋で醜態?」


そんなことを思っていると、また田中祥子の顔が浮かんで来た。

「あいつめ・・・庶民の娘のくせに・・・」

「この私が何で負けるの?」

「ルックスも教育も財力も身分も、私が上でしょ?」

「将来だって・・・天と地」


ただ、そんなことを「今の孝太」に言うと、ますます「冷たくされる」と思う。

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「孝太を奪うには・・・」


一方、杉浦美和との電話を終えた柿崎孝太は早速パン生地をこね始めている。

荷物の整理を終えた真奈も、途中から参加。

孝太は驚いた。

「おい・・・無理するな」

真奈は笑顔

「いいの、やりたいし、リハビリでもあるの」

「こねるのも焼くのも大好き」

孝太は苦笑。

「仕方ないな」

真奈

「懐かしいよ、一緒に並んでパン生地をこねるの」

孝太

「うん、そうだな」

真奈の手の動きが加速した。

「父さんに負けないくらい、美味しいパンを作ろうよ」

孝太の手も、力強さを増している。

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