第37話家に戻る車の中で

翌朝、孝太はお茶の水の病院で真奈の退院手続きを終え、一緒に車に乗る。

少し走ったとことで、話が始まった。


孝太

「お疲れ様、大変だったな」

真奈

「孝ちゃん、ありがとう」

孝太

「礼なんていらない、当たり前」

真奈

「すごくうれしかった」

「美和お嬢様にも、お世話になった」

孝太

「うん、お礼はしておく」

真奈

「お礼だけ?ホテルには戻らないの?」

孝太

「柿崎孝太を指名して、大使夫人のケーキパーティーの話がある、でもパン屋のことが気にかかっていて」

真奈

「うん・・・」

孝太は苦笑い。

「フランス大使館の常勤パティシエとかの話もある」

真奈

「孝ちゃん、本当はどうしたいの?」

孝太

「ホテルに常勤で戻るのは無理」

「パン焼きの練習をしながら、ケーキのレシピを考えるしかないかな」

「パティシエ長には、それでも頼みたいと言われた」

「・・・でも、身体が壊れるかな」

真奈

「うん・・・パン屋は朝が早いし、肉体労働だよ」

「店が本格的に再開となると、焼く量が半端でない」

孝太は、苦しそうな顔。

「それで親父も身体を壊した」

「俺の責任かな」

真奈

「私も少しは手伝ったけれど、きつかった」

孝太

「でも、やるしかないかな」

「パティシエは・・・それを機にやめる」

真奈

「・・・マジ?もったいなさ過ぎる」

孝太は苦笑い。

「両方は、無理だよ」

「だから、今回限り」

真奈はため息をついて話題を変えた。

「ところで美和お嬢様とは?」

孝太

「大変お世話になった人、今回の事件を含めて」

真奈

「・・・過去形?」

孝太

「どうしても・・・気持ちに接点がない」

「彼女は結局、セレブ思考、客を差別して見る人」

「セレブだけが客、それ以外は・・・」

真奈

「うちのパン屋なんて・・・」

孝太

「住む世界が違う」

真奈

「お気持ちはありがたいけれど・・・ってこと?」

孝太は頷き話題を変えた。

「祥子が散らし寿司を作って待っている」

真奈の顔がぱっと輝いた。

「え?うれしい・・・祥子姉さんが?」

そして涙ぐむ。

「祥子姉さん・・・ずっと待っていたよ」

孝太は頷く。

「俺も、ずっと・・・」

真奈は、泣き出している。

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